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1.長くも短くもない一日 前編

2008.11.25 *Tue
2階の窓を開けると、世界が広がっていた。
澄み渡る青空が広がる。胸一杯に新鮮な空気を取り込む。軽く背を伸ばすと気持ちが良かった。
四角くくり抜かれた壁の向こう、雄大な山脈が望めた。上空を仰ぐ。家を包む大樹の葉がざわついた。
最近は夜間が涼しくなったものの、僅かに部屋内部に湿気が籠もっている。この地域は明確な四季はないが、1年を通じて僅かに気温に変化が生じる。それでも微々たるものではあるが。今年はやけに暑い気がする。旅の最中もそう感じるのだ。今砂漠へ行ったら死ぬのではないか。冷や汗が流れた。絶対に寄らないと心に誓う。
爽涼とした風が吹き抜ける。ジンの日だからだろうかとひとりごちた。
今日も良い天気になりそうだ。

「おはようセティール」
「おはようサボテンくん」

セティールは顧みると、ベッドの脇小さな鉢植えに声を掛けた。サボテンがある。否、いる。
人型を描いた造形。丁度顔面に当たる位置に小さなくぼみと、黒いボタンがついている。一応目と口だ。
性別は未だ不明だが仮に彼としておこう。彼はサボテン。通称サボテンくん。名前が大差ない。歩行が可能な最新型サボテン。だが基本的に動かない。そして常に無表情。あまり変化がないところがチャームポイントである。

「栄養剤頂戴」
「開口一番それかよ。どんだけがめついんだお前」

何日か間隔を置いてサボテンくんに栄養剤を与える習慣がある。特に日付は決まっていない為、サボテン君が要求した日と基本方針にある。もっとも毎日要求してきた場合は却下する。
カレンダーを眺めれば4日前に丸が付いていた。サイドテーブルから栄養剤を一つ取り出す。サボテン君が勝手に持ち出さないよう鍵を掛けた。
栄養剤は鉢植えに刺さず、サボテン君の前に置いておいた。以前勝手に使ったら何故か怒られた。彼なりのこだわりが存在するらしい。
苦笑しながら階段を下りた。


静かだ。まだ誰も起き出していない。時刻は午前6時を指している。部屋着のまま外へ出た。
こぢんまりとした家だ。
外へ出て背後を見上げ、思惟した。
それでも4人で暮らす分には問題ない。
事実2人だけの頃は部屋があまり無駄にしていた。しかももう一人が部屋にいない割合が高く、殆ど一人で使っていたようなものだ。
年季の入った階段を見遣る。ドアの前の石の一部が大きく欠けていた。そろそろ補修をしないと誰かが転ぶかもしれない。セティールの脳裏に真っ先に浮かんだのが、白くふわふわした少女のことだ。補修しなかったことが原因で転倒したら、きっと万年集中力のない短期青年が鬼の形相で迫り、お前が悪いと憤激するに違いない。もっともその思考回路の方が怒りを買うのだが、生憎セティールは気付かない。
サンダルからはみ出た肌に柔らかな草が触れる。朝露が垂れ、歩くほど地味に濡れて冷たかった。
このまま晴れていれば、今夜は夜露を集めてみよう。星や月の光を浴びた露は適度にマナを宿し、楽器磨きに最適だった。
玄関から右手に曲がれば果樹園があった。

「おはようセティール。毎朝収穫するのは大変だろう。今日はバネバナナがよく熟しているようだ」

入り口の大半を覆う茂みを抜けると、巨大な樹木が語りだした。先程のサボテン同様やはり目や口、こちらには鼻もある。因みに家の木に関しては顔はない。
セティールは特に臆することなく大樹に近付いた。

「まぁ、牛乳嫌いのやつがいるから。けどあれこれして無理矢理飲ますのは楽しいぞ。ということでおはよう」
片手を挙げにこやかに挨拶してみた。なんという鬼畜とトレントが呟いた。
「フルーツ牛乳にして飲ませているだけありがたいと思うんだけどな。拒否されたら普通鼻から飲ますものじゃないのか」
「誰に教わったんだい」
「親」

遙か昔の記憶を回想すれば、そこには嫌がる自分自身の姿があった。元は牛乳嫌いだったんだっけとセティールが零した。矯正されたのは鼻から牛乳行為が嫌で逃避の為だったはず。少しだけ気分が沈んだ。
熟したバネバナナを何本か取る。最初は見分けるのが大変だった。なんせ完熟の時期が分からないのだ。未熟で堅かったり、逆に腐っていることもあったがトレントに仕込まれなんとかなった。
トレントの脇にストックされた小振りの籠に放り込む。ビーダマンベリーと朝食用のハリネズミレタスも追加。幹から下がる細い茎をナイフで切る。掌にずっしりとした重みを感じた。
程良く籠が満杯になった頃、自宅から香ばしい匂いが漂ってきた。ベーコンだ。匂いに釣られて腹の虫が唸った。想像だけで唾液が出てくる。
そろそろ戻ることにしよう。

「今日も大日はマナが満ちている。雨の心配はなさそうだ」
トレントの天気予報は正確だ。異常気象でもない限り外れない。彼に別れを告げ足早に果樹園を後にした。


しかしセティールの足は真っ直ぐ玄関に向かわず、一度動きを止め静思すると、途中で進路を変更した。家の裏手に回る。古びた工房があった。
伸びた蔓をどけ、扉を押しやればまず埃臭さが鼻腔を刺激した。先程の食欲をそそる匂いとは全く異なり、嫌な匂いである。少しは換気をすれば落ち着くのだが、如何せん元から空気の循環が悪い。
足下に転がるがらくたを蹴りながら道を開ける。希少価値のあるものもあるかもしれないが、セティールは大事な素材を地面に置きっぱなし等というへまはしない。やるとすれば相棒くらいだ。だから雑に扱っても雑に放置した人物が原因なのだから、自業自得として流すことが出来る。それでも蹴ったりして雑に扱った事実は変わらないのだが。
因みに果実に悪いと、籠は入り口の隣に置いてきた。
工房には幾つか部屋がある。大まかに分けて3部屋だ。武器作成室、ゴーレム研究室、楽器作成室。セティールは目的である左手の部屋に踏み込んだ。
むっとした熱気を浴びた。恐らく昨夜遅くまで工房で武具作成に勤しんでいたのだろう。工房の竈が熱気の原因だ。正直暑い。暑い以上に湿気が酷くむしむしする。汗が噴き出してきた。苦熱に耐えきれず嫌気が差す。
しかしそんな熱気もなんのその、無視して昏々と眠りこける人物が一人。

「エル、朝だ、起きろ」

端的に声を掛ける。少女はみじろぎ一つしない。肩を揺すってみた。変な寝ぼけ声がしたが、起きる気配はない。
白金に似た色素の薄い金の髪が無造作に乱れ、垂れていた。
見ると額に髪が張り付いている。汗が垂れる程暑くても、何処でも彼女は熟睡できるのが特技の一つだ。しかし身の危険を感じれば瞬時に飛び起きるのだから、生粋の冒険者というよりも、夜、見張りのいない一匹狼という役割が身体に染み込んでいる。
とは言うものの、まさか危険を感じるほど何か攻撃したりすれば覚醒後が恐ろしい。何せ彼女の方がLvが高くほぼ勝てた試しがないのだ。割合にして勝率8:2。頑張っても2割。たとえ普段強気でも勝率は2割。どれだけやっても8割は敗北の旗が揚がる。少しだけ泣けてくる。枕を涙でぬらしたくなる気持ちとはこういうことか。
さてどうしたものか。口元に手を遣りながらセティールは一通り思料した。とりあえずポケットに無造作に突っ込まれたねこじゃらしを取り出し、傍らにいる少女の鼻をくすぐってみた。何故ねこじゃらしが都合良く入っているのかとかは突っ込んではいけない。朝、彼女を起こす道具が今日は偶々ねこじゃらしだっただけだ。

「へっくちっ、あう」
漫画にでも使われそうなくしゃみだった。

「鼻水とばすなよ、汚い」
「誰が飛ばすかぁああっ!」

意識が浮上した彼女の動きは速い。極端な話寝起きでも覚醒時と反応に誤差がない。案の定、起き抜けに渾身のアッパーが繰り出された。臆測はしていたので回避自体は簡単だった。もっとも相手も本気では当てる気はさらさら無いと言うことを承知の上だ。激怒した場合は当てる気満々だが。コミュニケーションの一つのようなものである。直撃すれば不運程度。しかし色々間違っている。

「寝てるから朝食いらないかと思ったぞ」
首だけ横に逸らしたまま、セティールの重心は傾いていた。本来頭のあるべき場所には伸びた腕が一本あった。
「いるから。別に作品の一つは作り終わったし。まだ見せないよ」

予め釘を刺された。一つはと口にする辺り、何種類かセットで一つの武具なのだろう。
セティールは首を戻し、両肩を回してこりをほぐした。
エルは物を作る能力に長けている。武器も防具もゴーレムも作る。楽器の類も作れるがあまり作ることはない。
彼女に音楽の才能が絶望的な程にないからだ。所謂底辺。壊滅的な程楽器と相性が悪い。しかし本人はさほど気にしている様子はなかった。天性の才能故か、演奏が苦手でも調律程度は可能なので楽器作成においては問題がないらしい。
しかし今日は様子が違った。目眩でもするのか、ふらふらと作業机に手を付き、頭を垂れる。

「うぅちょっとだけくらくらする、ちょっと待って、置いていったら殴る」
踵を返そうとしていた動きが止まる。セティールは振り向き様に一言問うた。

「ああ、あの日?」
「ちっがーう! あんた分かってて言ってるでしょ」
睨まれた。髪をかき上げる仕草と、隙間から覗く頬が朱色を帯びている。

「赤ら顔で突っ込まれるとさ、流石に悪いことしたかと俺も恥ずかしくなるんだけど」
「知るかっ」

しれっと返すと、本気できついんだけどと非難の声が上がった。
時折彼女は貧血を起こす。軽い場合も普通に倒れる場合もある。原因は基本的に物を食べていないことからの栄養不足。
彼女の創作意欲はある種異常なところがある。今回も2日間この暑くて仕方がない工房に閉じこもり、水分補給をするくらいで出てこなかった。最長5日。1週間は水だけでも死なないと言うが、疲労もあり死ぬだろと無理矢理工房をこじ開けた事例が過去に数回ある。5日という数字はそれ故である。怖くてそれ以上は放任できなかった。
それでも基本は貧血だけで済んでいるのだから驚異的だ。普通は倒れる。
座り込んでしまった彼女の手を握ってみる。冷たかった。

「とりあえず休むにもここだと悪化するぞ、暑いし」
「うん……」
「トレントのところが一番良いけど、どうする、おんぶして運ぶか。ああ、抱っこが良いか」
「全力でお断りします」

減らず口だけはどうしようもない。これだけ言い返せれば今回は大丈夫だなと、まずは立てるか否か。ゆるく首を縦に振られたので、握ったまま引っ張り、立ち上がらせた。冷たかった手が温まってきていた。
手を引いた状態で工房を後にする。歩幅は短く、動きは遅くとても鈍い。
幼い頃から彼女の創作への熱意は現在と変わらない。衰退することなく健在というのも今時希有なことだ。

「昔っからこうだよな。お前、多少は他人に迷惑かけない生き方できないわけ」
「ごめん、自覚はあるんだけど止まらなくて。それに」
「何だよ」
「セティ、世話役のそんなに嫌いじゃないでしょ。昔からだよね、手を握ってもらうの。いつもあたし後ろで引っ張られてるの」

馬鹿な話である。セティールはこうして手を握って歩くことのそもそもの発端を思い出した。
医学の書物を読み漁っていた際、温めるのも貧血に効果的なのだと記載されていたのだ。確かに血流の流れが悪い、つまり代謝が良くないと手先が冷える。しかし手を握った程度で軽快する程簡単なことではないのだが、子供とは至極単純である。それ以来の癖に近い。質の悪いことにエルも拒否せず他人の体温があると落ち着くのか、喜ぶものだから無下に出来なかった。
背後を一瞥する。彼女は黒いワンピースを着込んでいた。彼女の部屋着と似ているが、何故か作業する場合だけこの衣装を着るのだ。まるで喪服だとセティールは考えつつ、己を顧みて首を傾げた。対する自身は白服だったからだ。
意味があったような気がするような無いようなと脳味噌を絞るものの、徒労に終わった。検索結果ゼロ。お手上げだ。
果樹園に彼女を運び、眠りについたのを見届け、自身が一旦自宅に戻った時にようやく我に返った。
そういえば、果物を工房の前に置き去りにしていたと。
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やなぎめし

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絶賛応援中


素敵企画を発見したので思わず。



本編目次

全14話予定

セイレーン編
第0話 世界の象徴
第1話 長くも短くもない一日( )
第2話 人魚の願い( )
第3話 鳥乙女の願い( )
第4話 寄り道道中( )
第5話 閑話休題( )
第6話 煌めきの都市防衛戦( )
第7話 旧時代
第8話 人形の願い
第9話 少しだけ長い一日

聖域編
第10話 鏡面世界
第11話 とても短い一日
第12話    の物語
第13話 聖域へと至る軌跡
第14話 ふたりぼっち
エピローグ

以降小出しにて更新中(現在第7話迄)



番外編目次

【時間軸】
ゲーム本編中:

サイト本編中:
現実と理想の差異による只の散歩
サイト本編後:
瑠璃くんの無駄に長い一日



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