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5.閑話休題 後編

2009.02.22 *Sun
 泣き疲れて、目覚めたら周囲が真っ暗だった。身をよじる。少し寒い。
 思考がうまくまとまらず、俯せのままぼんやり炎を眺めた。時折爆ぜる。不規則な音楽が心地良かった。
 視線をずらすと枯れ木をくべる腕が見えた。細い枝みたいだ。徐々に視点を持ち上げる。
 セティールは飛び起きた。少女と目が合う。しかし彼女は数秒後そっと視線を逸らし、そのまま空を彷徨った。何処を見ればよいのか分からないといった感じだ。

「おはよう」
 彼女がやっと絞り出したのはなんてことないただの挨拶。しかし視点はずれている。
「おはよう、どうしたのさっきから」
 彼女は服の裾を力強く握りしめていた。怯えていた。あんなにも強い少女がだ。今にも泣き出しそうな色をしている。暫くして、火の反射で赤くなった顔を伏せた。
 セティールも手を伸ばしかけ、どんな風に話しかければよいか躊躇い、押し黙った。腕を戻す。非常に気まずい空気だった。
「だいじょうぶ」
 隣でむくりと目覚めたサボテン君の発言に、セティールは首を傾げた。しかし炎に近すぎて燃えそうで怖い。

「いっぱい、ないたの。いっぱいやさしいの、はなちゃんもくさむしもしってる。だからだいじょうぶ」
 セティールは、サボテンくんの台詞の意味が理解できなかった。
 俯いていた少女が顔を上げた。数秒の逡巡の末、決心したかのようにサボテン君に頷いた。その瞳は間違いなく先刻の魔物を倒した、あの凛々しい表情だった。
「身体は大丈夫、痛くないかな」
 表情が少し強張っている。多少迷いが抜けていないものの、しっかりとした物言いだった。声のトーンも、姿も、自分と同年代とセティールは推測しているが、どうしてか年上の誰かと喋っている感覚が抜けない。やはり冒険者だから違いが出てくるのだろうか。
「うん、こう見えても丈夫なんだよ僕。怪我しても治りが早いしさ」

 実は幾分か背中が軋んでいた。表面だけ腕を回したり、大丈夫だとアピールする。
 少女は困り気味に笑った。酷く脆く、危なげに映るものだから、セティールは無駄に虚勢を張り続けた。だから段々背中が痛くなってきた。やりすぎたと反省する。
 混乱した頭も随分冷静さを取り戻した様子で、改めて少女を見据えた。観察するとも言う。失礼極まりない行為であるとは自覚していた。
 夕刻の日差しもあって印象に残っていなかったが、まず第一に髪が綺麗だとセティールは思った。焚き火の柔らかい光を反射する白金色。セミロングの長さで不揃いに切られている。整えると更に短くなってしまいそうだが、勿体なかった。
 再度木をくべる。外套から伸びる腕は細く年相応のものだった。あれでよくあんな槍を振り回せるなと感心した。顔つきもどちらかといえば可愛らしい方である。妙な髪飾りが気になるが。あの棒はどうやって刺さっているのだろう。埋め込み式だったら怖い。
 しかしついさっきまで張りつめた空気を纏い、劣等感を抱かせるほどの衝撃を与えたのは、間違いなく彼女である。あまりのギャップに軽く目眩を覚えた。

「ところで、さっき何をしていたの。見るからに慌てて家を飛び出してきた格好だけど。あ、話したくない場合は聞き流してね。勝手に喋ってるだけだから」
 彼女は慌てて手を振り誤魔化した。
 特に隠す必要もなかったので、半分愚痴として吐露した。彼女は眉を顰めた。悲しげだった。セティールは首を振る。
「でもさ、僕考えたんだけど。サボテン君の言うとおり、一度ちゃんと話してみるよ。今まで僕、自分のことばかり考えて、どうして側にいてくれないのか理由も聞いたことがないんだ」
「そうだね。話し合いで解決できるなら、きっと大丈夫。頑張って」
 セティールには理解不能の領域だったが、彼女の言葉には哀傷が込められていた。
 なるたけ話題を変えようと、手を叩き、あたかもこの瞬間まで忘れていたふりをする。
「ところでここは何処」
 現状を尋ねる。辺りは暗い。帳も降り、星々が遙か上空で輝いている。新月だった。
 今更ながらに、無理に話題を変更する。無理におちゃらけてみせるのも発端はここだったのかもしれない。定着したのは頻繁に旅に出て、多くの人と触れ合ってからだが。
「リュオン街道の途中。気を失ってから結構経ったよ。随分深くなってきたし」
 彼女は上空を仰ぐ。釣られて見上げた。
「そっかごめん。ええと」
 セティールは迷った。しかし曖昧にしておくのも気分が良くないので、単刀直入に彼女へ問いかけた。

「ねえ、キミの名前なんて言うの。どうやって呼べばよいのか分からなくてさ」
「名前」
「そう名前。僕はセティール。スペルはSETI……どうしたの」
 少女は俯き、何度もこちらを上目で確認したり、足下に視点を移したりと、挙動不審だった。セティールは酷いことを口にしたかと気にする前に、常識の範囲の発言しかしていないと振り返る。
 少女の背後には薪の代用として集めてきた枯れ枝が山になっている。彼女は小振りの枝を一本取り、地面をなぞりだした。炎を囲んで向かい合う形だった為、セティールは一度腰を上げ、彼女の隣へと移動した。
 足下に文字が並んでいた。明らかに女性の名前である。
 炎の動きにあわせて、陰が揺れる。

「キミの、名前、だよね。もしかして喋りたくなかったとか」
「あまり好きじゃないから」
「どうしてさ。綺麗な名前なのに」

 箝口して一向に語りそうにない。
 もしかして自己紹介の度、この娘はこう落ち込むのだろうか。セティールは自然と冷や汗が出た。彼女は痛歎の表情で、のし掛かる空気が重い。
 名が嫌なら、呼び方をどうしたものか。頬を掻いた。そして閃く。我ながらナイスアイディアと叫び、文字の一部に砂を掛けた。
 やがて最後まで残った文字が二つ。

「頭の2スペルをとって、エル。ELでエル。キミのことはエルって呼ぶことにするよ」

 頬を上気させ、満足げにセティールは頷いた。許可が下りるか否か、返答がないにも関わらず決定事項と決めつけてきた。無理矢理である。
 しかし逆に強引なところが功を奏したのか、最初こそ少女は戸惑っていたが、最終的に満面の笑みで首を縦に振ってくれた。今まで微笑んだりしてくれてはいたが、何処か壁があった。しかしこの笑顔だけは、間違いなく年相応の少女のものだった。
 複雑な事情もあるだろうとは、この時点で誰しも推察できた。セティールはあえて問い質したりはしなかった。自分も両親のことを質問される度、嫌だったからだ。誰しも話したくない一面がある。
 この出来事から流れが良い方面へと進み、会話が徐々に弾んできた。魔物も現れず話し込み、セティールはいつの間にか深い眠りに落ちていた。多く誰かと会話するのも久しぶりで楽しかったのだ。
 後々知ったのだが、一帯の魔物はあらかじめ掃除していたらしい。全く酷い実力差だと痛感した。

 翌日、早朝からエルの案内で帰り道を探索することになった。生憎セティールは無我夢中で走り続けた為、全然記憶に残っていなかった。面目ないと項垂れる。
 初めての野宿に身体の節々が痛かったものの、初めて大泣きしたこともあってか、胸中は随分と晴れやかだった。
 二人、もとい三人は何度も道を誤りながらも、夕刻が迫る頃合いに見慣れた道程に辿り着けた。幸いにもサボテンくんがある程度路を覚えていた。残念ながらアマレットを呼ぶには切手がなかった。
 自宅への坂道を登るときは、既にセティールの身体はぼろぼろ、足ががくがく状態と疲れ果てていた。ここまでの途中、エルが何度か休憩を提案してきたが遠慮した。同じ距離を歩いたり、時には走ったりしたにも関わらず、彼女は全く疲れを感じていない様子だった。ちっぽけなただのプライド。
 外見は泥だらけで傷だらけだが、正直内心は奇妙な達成感で満ち溢れていた。確かな高揚感。軽率な行動が招いた事態とはいえ、結果として充実した日となった。尤もこんなことを前方を歩く少女に語ったら、確実に叱咤されるとは目に見えていた。

「ただいまー」
 サボテンくんと共にセティールは玄関から雪崩れ込んだ。無意味な笑みが零れる。頬が緩むのだから仕方がない。
 空気をいっぱいに吸い込み、吐き出す。
 室内はセティールが出て行った頃と全く変化がなかった。テーブルの上を転がる食べ物も、かちかちになってしまったパンも。卵なんて一部割れて床に散らばっていた。勿体ないことをした。
 床の上をごろごろ転がる。汚いとか気にしない。木の温もり。生誕時から変化のない空気。堪らなく愛しかった。
 玄関の向こう側で、呆然とエルがこちらを見詰めていた。目が合った。少々気恥ずかしい。セティールは立ち上がり、誤魔化し半分、手を差し出した。

「ほら、突っ立ってないで、入って休もうよ、僕疲れてるからさ。エルも疲れてるだろうし」
 少女の視線が泳いだ。セティールは大丈夫だと微笑んでみせる。
 胸の前で握られた両手。最初は怖々と、エルはセティールの掌に触れた。
「じゃあ、お邪魔します」
「いらっしゃいませ。とりあえずおなかへったー、何か食べよう。エルは何が好きなの」
 扉がしまる。外には誰もいない。
 ドミナの町はずれ。小高い丘に明かりが灯る。
 記念すべき、この家に住む少年の、初めての友達が招かれた日となった。




 初めてのお使い、もとい初めての冒険半日コースから早数十日が経過した。
 無計画な逃亡に反省しながら、否、全く反省しないままセティールは素振りをしていた。現在ようやく百の数を超えたところか。既に腕が痛い。初心者にこれはきついんでないですかと内心冷や汗をかきつつ、セティールは弱い握力で木刀を握りしめる。
 数メートルほど先に位置した巨木。その根に彼女は腰掛けていた。ラビが彼女の足下を跳ね回っている。
 彼女はセティールを一瞥すると軽く左手を挙げた。休憩の合図。一気に力が抜け、セティールは大の字に寝転がった。
 草むらが柔らかく、気持ちよい。穏やかな日差しの中でも、草花はとても冷たかった。
 エルは愛用の槍の手入れを行っていた。時折顔を顰めては幾度も槍を握り、軽く宙に飛ばす等を繰り返している。重量が以前と違って重すぎるとかぶつぶつ呟いていた。

 あれから少女はセティールの家で暮らしている。本人は幾度も断固拒否を決め込んでいたが、両親が勝手に決めつけ、またしても勝手に外出してしまったのである。
 流石にセティールを一人にするとまたしても無茶をすると内心考えているのか、彼女は出て行く素振りを止めた。恐らくこれが両親の狙いだったのだろう。代わりに彼女はセティールに剣の稽古、素振りを強制的に日課にさせた。拒否権はなかった。
 勝手な親ではあるが、以前よりは正面から彼等と向き合えるようになったと、信じたい。

 両親とは帰宅直後に遭遇した。幸か不幸か、セティールが飛び出した直後に帰宅していたのである。長いこと遠くまで捜索していたのだろう。両親はセティールと同じかそれ以上にぼろぼろの酷い有様だった。旅から戻ったままの服装で、荷物は玄関先に放り出し、一心不乱に捜していたのである。
 玄関を開けて、あの物取りにでもあった光景を目の当たりにして、尚かつ息子もサボテンくんさえも不在なら、当然寒心する。実際目の前が真っ暗になった。
 強盗等は杞憂に終わったものの、外から戻った母親は真っ先に息子を抱きしめた。父親も震え、激怒しそうな空気ではあったが、唇を噛みしめ、優しく自身の息子を撫でた。
 セティールは母親の怯えが伝わり、申し訳ないような、酷いことをした罪悪感で胸が詰まった。そして、家族が突然いなくなったら、心痛し捜すに決まっている。あまりにも当たり前なことだった。
 どうして自分は両親が自分のことを顧みないと、妄信していたのか。現に母も父もこんなに息子の身を案じ、涙を流しているではないか。憂い、痛み、恐れが溢れて止まらない。

 両親は長く、冒険者として旅を続けていた。旅で自給自足など不可能な話で、勿論路銀が必要となる。彼等はセティールが生を受けるまで、時折資源や鉱石の発掘や、町や村に住み着き作物を荒らしたり、人を襲う魔物を退治しながら資金を稼いでいた。
 家を構えたのは帰るべき場所を作ることと、可能であれば安心して一生暮らせるよう、冒険で命を落として欲しくない願いがあった。
 簡単に命が消えてしまうことを、彼等は十分理解していた。例えば、セティールの無謀な行動がまさにその一例である。今回は偶然エルと出会い、助けられたから生き延びたものの、通常であればあの状況下での生存率などゼロに等しい。9割方は亡くなって当然なのだ。
 最初は両親も、せめて成長するまではセティールの側で守ろうと計画していた。しかし、冒険者の頃の名を頼りに時折依頼が舞い込んできた。中には切迫したものも混じっていた。放っておいたら相手がどうなるか、容易に想定可能だ。元来この家計はお人好しが多い。何度も迷った。
 勿論他にも理由はある。ドミナの町は比較的未だ物々交換が成り立つものの、現在主流となったルクがやはり強い。ただ生きることだけなら問題ないものの、家を構えるとなると必要となる物資がかさんでくる。
 仕方なしにドミナのジェニファーに息子を預け、彼等は外に出た。だが、予想外として、依頼が終われば次、また次と、声が途絶えることがなかった。
 セティールのことは無論気掛かりだったが、日に日に息子は両親と距離を置くようになった。彼等も初めて子育てだ。子供の反応に戸惑い、一人の方が良い時期なのだろうかと、あえて距離を縮めようとしなかった。徐々に溝は深まり、誤解を招く結果となったのは説明するまでもない。

 相手の考えなんて、口にしなければ誰も理解できない。発言しても理解できないことが多いのだから、言わなければもっと分からないものだ。

 だからせめてもの罪滅ぼしに、息子には不自由ない暮らしを彼等は望んでいた。
 そう、セティールが何気に持ち歩いていた財布の中身も、彼等が稼いだものだった。
 何処からお金が出てくるのかなんて、セティールは一度も考えたことがなかった。
 いつか、エルがセティールに告げたことがある。誰も一人で生きるなんて出来ないと。出来ても、とても心が寂しくなるだけだと、伝えられた。
 その時の瞳がとても清んだ碧をしていて綺麗だと思った。
 セティールは大の字のまま身体を伸ばし、仰向けから反転、腹這いになる。

 両親との隔たりはまだ多少感じるが、以前よりはましになった。屋根裏部屋の事情などはまだ尋ねていないが、今度彼等が戻ったら質問をぶつけてみようとセティールは考えていた。大丈夫、きっとちゃんと答えてくれる。
 二人は数日後に再び旅に出た。今度はとても長い旅になりそうだからと、両親がセティールのことをエルに頼み込んでいた。一応初対面の人間に、しかも息子と同じ年代の人間にそれはないのではとつっこみたかった。
 エルは渋々ながら条件を一つ付け、これを了承した。
 以来、彼女はここで暮らし、今日ものんびりと日が暮れていく。
 セティールの腕の痺れも大分和らいできた。だから少女から続きの催促がくる。容赦ないというか、鬼畜というか。つい笑いがこみ上げてきた。

「あと残りはどれくらいかな」
「坐禅と、打ち込みと走り込み」
「体力だけは無駄に付いたね、まぁ、そういう組み合わせしたんだけど。生憎ちゃんとした剣の稽古はわたしじゃ無理だから」

 エルは苦笑した。
 セティールは素振りを続ける。
「正直きつい……」
「じゃあ今日の素振りそこまで。無理してもあれだし、時々は身体に休息与えないと」
 彼女の拍手で、セティールは腕の動きを止めた。とてつもなく怠い。休息といっても免除されたのは素振りだけなので、打ち込みや走り込みは継続中である。
 穏やかで、楽しい日々だった。今までずっと誰とも遊んだりしたことがなかったから。

 けれど、これが終わらせる為の行為だというのは、最初から知っていた。
 エルはあの時両親にこう告げたのだ。セティールが一人で外に出ても、簡単に倒れないくらい鍛え終わったら、出て行くと。
 彼女が熱心に打ち込むのは、この家族ごっこを終わらせる為であると同時に、ここに定住したくないという意思表示。
 そもそもセティールは、何故少女があの日街道を一人で歩いていたのかさえも、事情を知らなかった。
 何処に住んでいるのか。家族はどうしたのか。あとその髪飾りはなんなのか、はどうでも良いので横に置いておく。
「少し休んだら打ち込み。相手するからいつでもどうぞ」
 セティールは、伏し目がちに頷いた。
 因みに結果は悲惨なものだったとだけ報告しておこう。

 そして予告通り、数か月後、彼女は出て行った。引き留めようとしたが、喋れなかった。気の利いた台詞が思いつかなかった。
 エルが消えてから数時間で、セティールは自身の気力低下の原因に嫌という程気付いていた。ノルマとなった訓練も行っていない。木刀を未だ握っているような、錯覚をしてしまう。
 行く宛など告げられなかった。人里を避けるよう、ドミナの町を追い越して、街道を進んで行く姿をサボテンくんと共に見送った。
 倦怠感を引き摺りつつ、セティールはドミナの町の噴水前にいた。いつも人気がなく一人で居られて心が安らいだ。本日は先客がいたが。
 彼は巨大なオルゴールのぜんまいを回していた。金属の擦れる嫌な音が酷く耳障りだった。相変わらずローブにくるまっていて端から見ると、怪しすぎた。
 警戒心を抱かせる格好なのに、そういえば町の人は誰もこの人物の噂をしていないなと思い出した。格好の話題の的になるはずなのにだ。
 公園には、誰もいない。ペリカンも、町の人も。二人きりだった。

「本日語るのは、聞くも涙、語るも涙のお話さ。聞いていくかい」
「いいよ」
 どちらともとれる発言を、彼は肯定と受け取ったらしい。オルゴールから深く悲しげな旋律が溢れた。
 セティールはベンチにもたれ掛かった。今日の夕飯は一人分を作る羽目になるのか。買い物はまだ終わっていなかった。

「昔、遠くの村に小さな赤ん坊が生まれた。不思議なことに、この少女は同時に生まれた他の誰よりも物覚えがよく、むしろ最初から知っているかのように映ったそうだ」

 瞼が重い。セティールが軽く目を閉じると、暗闇の中、不可思議な現象が発生した。
 目の前にゆりかごを囲む一家がいた。彼等は子供の誕生を祝い、談笑に夢中だ。
 ここは何処か。
 セティールは踏み出す。相手に声を掛けたが反応がない。背が低いため、男性の腰付近を叩こうとしたら、すり抜け、転倒した。倒れる間際、視界の端に入り込んだゆりかご。そこには赤ん坊が居た。泣きもせず、じっと両親を見詰めていた。
 脳裏には変わらず曲が流れ込み、消失していく。
 ここは何処なのか。公園のベンチにいたではないか。
 セティールは喫驚しながらも、冷静になろうと必死に四顧した。頭が突拍子もない現実に追い付いていない。
 質素な家だった。部屋の中は狭く、窓の外には村人と子供の走る姿や家々が望見できた。
 画面が移り変わる。
 少女が寝台の縁に腰掛けていた。場所的に先程と同じ部屋だろう。白金の髪が垂れていた。
 彼女の数歩先には大人が幾人か集合している。両親と思われる二人もその群衆にいた。幾人かが親を囃し立てる。

「あまりにも特殊な幼子に、神童とまで噂され。けれど、少女は周囲にもてはやされても、ちっとも喜ばず、逆にどんどん暗く縮こまっていくようになった。あからさまに対人を避け始めたのはこの頃だね」

 彼女は一人の男性に何かよく分からないものを手渡され、指示を受けている。悲痛な面持ちで、彼女は首を横に振った。
 男性が語気を荒くしたのが唇の動きで読み取れた。
 音声はなかった。だから内容は分からない。分からないけれど、彼女は間違いなく全身で嫌悪していた。

「ある日村が盗賊の襲撃にあう。偶然が重なり合って、それが偶々少女の村だったのさ。その時唯一生き残ったのはその少女一人」

 絵画が切り替わる。家が燃えている。村も、近隣の森も炎に囲まれている。熱さはない。火の中はこうなっているのかと、セティールは冷静に眺めていた。
 熱風が奔る。切り開かれた場所に彼女は立ち竦んでいた。随分と成長した姿。間違いなくあの娘だった。
 眼前には見知らぬ人間。服装から、村の人間ではなかった。彼等の民族衣装は少々特殊で皆棒状の髪飾りをつけていたからだ。
 焼ける臭いもしない。彼女が後退ると、何かに当たった。
 息を飲む。セティールは絶叫した。

 何かがあった。
 何かが元は何かだったなんて考えたくない。
 何かが足下に、壁一面に飛び散っているのも、きっと何かが焼ける臭いが漂っているのも、感じたくない。
 何かが強姦にあうのも、その後無惨に何かにされるのも、気付きたくない。
 何かで溢れかえる中、生者として彼女は確かにそこにいる。
 あまりにも無惨な光景に、せり上がるものを感じた。必死に嘔吐を堪える。けれど目を逸らさなかった。
 呆然と、泣きも叫びもせず、足下を見下ろし、周囲を眺めた。人が人を襲う惨たらしい光景。勿論彼女のように完全な人間ではない種族も混じっていたが、人には変わらない。
 彼女は何かを目の前の相手に語りかけた。しかし言葉は届かない。相手は剣を振り翳した。一秒後に見えるのは凄惨な死。
 瞬間、足下の砂利を引っ掴み、男の顔面目掛けてぶちまけた。ひるみ、剣を取りこぼす。金属片が入っていたのか、目から血を流している。その隙に彼女は全力で逃げ出した。

「それから生誕からずっと、確かめたい場所へと彼女は走った。けれどそこで目にした光景に、彼女は耐えきれず、悲しみ、逃げ出してしまった」

 光景がちょくちょく変化するのには慣れてきた。今度のセティールは林の陰にいた。
 彼女は村に居たときよりも、青ざめた顔で震えていた。息を切らしたまま、両肩を抱き、耐える。しかし脱力し、へたり込んだ。両の掌を強く、大地に押し付けた。
 彼女が口を開いた。誰に話しかけているのか。木々が陰になってセティールからは死角になっていた。
 視点をずらそうと、移動しようとして、切り替えられた。

「帰る場所もない。行くべき場所からも戻ってきてしまった。前にも後にも動けないまま、人里を避けて、彼女が何処へ向かうのか」

 今度は見慣れた街道だった。いつもの槍と、先程出て行くときに手渡したバッグを提げている。リュオン街道だ。彼女は路の脇にある岩陰に腰掛けていた。手に持ったパンを食べず、遠望する顔は、複雑な色を帯びていた。
 そんな顔をして欲しくなかった。笑っていた方が、断然良かったのだ。
 叫び声も届かない。意識が遠くなる。

「セティール、キミは気にならないかい」

 飛び起きた。起きて、セティールは首を傾げる。いつの間にかベンチで眠っていたらしい。例の詩人ももういない。
 太陽は殆ど傾いていない。水の音と遠くの喧噪。ペリカンが住宅街へ歩いていった。飛ばないのか。
 それより今のは夢だったのか。夢にしてはやけに現実味を帯びていた。
 しかし悠長に推理している場合ではない。旅立ちの間際、エルから貰った短剣を腰から引き抜く。護身用にと、受け取った。恐らくその内セティールがいつか旅立つと予想していたのだろう。だからこそある程度鍛えていたのだ。
 家には武器が何一つなかったから。
 正直自宅の包丁以外の刃物を手にしたのは初めてだ。とても重い。本来ならさほど違いはないのだが、こちらは防衛の為、何よりも傷付けるための道具として生まれた。目的が違う。身震いした。
 瞳に迷いが生じる。セティールは躊躇した。連れ戻してどうするというのだ。彼女は独りを望んだのである。

「でも、やっぱり独りきりは辛いよ」
 大丈夫きっと何とかなると、頷いて、鞘に仕舞った。
 セティールは走った。ドミナの町を過ぎる際、何人かに声を掛けられたが、返事をしている余裕はなかった。むしろセティールの視界には入っていなかった。
 しかしリュオン街道は広い。果たして何の宛もなく発見できるのか不安だった。もう別の町等に移動しているかもしれない。
「ああ、そっか。そういえばポケットに入れておいたような」
 砂埃を立てながら急停止する。両のポケットを裏返すと、紙とペン、後は切手が落下した。前回の行為で学習したことがある。
 どういう理屈かは知らないが、否、知りたくないが、郵便物があれば何処でも出現する人がいる。人と言ってもペリカンだが。正式名称はアマレット。切手が貼ってあれば何処でも駆けつけ、何でも配達してくれる。配達は彼女にとってかけがえのない職務だ。
 だからいたずらに人間に切手を貼り付けると大変なことになる。以前勧誘を断るためニキータに貼り付けたのだが、最終的に宛先なしで町はずれの荒れ地に放置されたのは記憶に新しい。
 頭に貼り付けるのは後で、一旦指に貼り付けておく。

「ゆーびんぶつはっけん、ゆーびんぶつはっけん!」
 指に貼っただけで見つかった。
「うわぁ!? 捕捉早すぎ、宛先まだ書いてないのに! まぁいいや、宛先はエルのとこ、いい、エルっていう女の子が受取人だから」
「ミーのお仕事はゆーびん配達。どこでも何でも運ぶのよ~」

 一気に飛躍する。アマレットの嘴にセティールの上着が引っかかる形で、空中にぶら下がっていた。流石に袋には入らない。しかし、実に力持ちだ。
 猛スピードで彼女は行方のしれない宛先へと向かっていく。パワフルだなぁとセティールは思った。
 上空から鳥瞰するする光景は、見慣れたドミナでさえ真新しい見方でとらえることが出来た。多少おなかが冷えるのは我慢しよう。
「はっけんはっけん、お届けさきがみつかったわよ~」
 リュオン街道を暫く飛行したところで、アマレットが地上へと急下降を開始した。
 しかし対象物を渡すとき彼女はどうしていただろう。ニキータのことを思い出す。彼は確か町はずれでゴミ箱にはまっていたらしい。普通自らはまることはない。アマレットが投げ入れでもしない限り。
 はたと気付く。致命的なことに遅すぎた。

 投げ捨てられた。
 顔面着地成功。勢い余って口腔に砂利が進入する。酷く気分が最悪なものになった。顔を歪め、セティールは吐き出した。
 改めて振り返る。街道の真ん中で、呆然と立ち尽くすエルがいる。
「やっと見つけた……っ」
 セティールは片手で顔を拭った。汚れたままはみっともないが、諦めることにする。 
 数メートル先にはエルがいる。急いで駆け寄る。
「なんで、せ」
 瞠若し言葉を切る。彼女は息を飲み、声を張り上げた。
「駄目、動かないで!!」

 反射的にセティールが歩みを止める。
 眼前を何か鋭い風が奔り抜けた。髪の毛が数本、風に舞って飛んでいく。
 どっと汗が噴き出した。忘れた呼吸を取り戻し、大きく息を吸い込む。動転している場合ではない。
 彼女が睥睨した先に向き直る。巨大カマキリのような、奇妙な昆虫が居た。大人の背丈よりも更に高く、大きい。ぶら下がる二本の鎌は不気味な色で変色していた。
「盗賊とか色々出るとは知ってたけど、大型魔物が出てくるなんて聞いてないっ。あのホラ吹き、今度あったら絶対殴ってやるから」
 苦々しく毒突くエル。苦虫を噛みつぶしたような、酷く機嫌が悪いらしい。
 セティールを置き去りに、彼女は一足跳びで巨体へと接近する。重量級の鎌を容易くかわし、背後へと回り込む。しかし鋼鉄じみた甲羅の前に、いとも簡単に攻撃は弾かれてしまった。

「関節を狙わないと多分倒せないよ!」
「分かってる!!」
 節足動物は関節が脆い。セティールが助言をすると、苛立った怒声が返された。
「分かってるけど、身体の方がついて行けてないのっ! ああ、もう、この変な感覚のブレが気持ち悪い!」
 衝撃波が地面を抉る。魔物の背後にいるセティールにも、余波が流れてきて、素早くセティールは真横に跳んだ。
 接近していないからまだ余裕はあるが、近距離の彼女はどうしてこれを瞬時に回避するのが可能なのだろうか。
 背面ががら空きなのは理解していたが、飛び込んだ瞬間やられるのは目に見えていた。だから動かない。悔しいが彼女の邪魔になるだけだ。
 2本の鎌が同時に振り下ろされる。無意識にエルは柄で受け止めたものの、苦痛が滲んでいる。体重差故か、身体がついて行けないという言葉通りなのか、受け流すことが出来ずに、ひたすら耐える。
 重みで、踏ん張る足が動く。地面が軌道を描く。限界が近い。
 鎌の一つが離れる。上空で振り回し、止まった。矛先は後方の無防備状態のセティールではなく、前方、脇ががら空きのエルに対して。

「エル!?」
 無意識に体が飛び出した。魔物の脇を擦り抜け、勢いを殺す暇なく、彼女毎前方へ、跳ぶ。
 風を掻ききる音が耳元で聞こえた。
 空中で少女を抱え、背後の衝撃から守る。背中が熱い。重みに耐えられず、脱力し、落ちていく。そのままごろごろと何度も地面を転がった。あまりの痛みに意識が飛びそうだ。
 エルが呼びかけているのは分かるが、朧気だ。耳が遠く、視界も徐々に狭くなっていく。
 そしてセティールは気を失った。



「けが、ひどい。セティールだいじょうぶ」
「寸前である程度避けたから、深くはないの。多分大丈夫だと思うけど。怖い」
 頭が痛い。何よりも背中が痛い。先刻の痛み程ではないが、出血が止まったからだろうか。尤も痛みなんて二度も思い出したくないが。
 最初に映ったのは天井。次に覗き込む四つの目。動揺を隠せない色。
 ああ、自分の部屋だ。セティールは額に滲む汗を拭った。

「セティール、め、さめた。ぐらぐらですか?」
「あー……ぐらぐらというか、なんかぼーっとするというか。なんだろう、背中がやばい気がする」
「鎌でばっさりいったから」
「うわ、聞くと怖いからやめて」

 貧血でくらくらするのか、想像で貧血状態に陥ったのか判断しづらい。上半身を起こす。目眩がしたので少々動きを止め落ち着くまで待つ。
 確かに腕や衣服の一部に黒いものがこびり付いていた。エルも同様で、彼女は全身の至る所が染色されている。リュオン街道からここまで懸命に運んだのかと想像すると、申し訳ない。
 よく生きてるなとセティールは感心し、ついでに寒心した。
 エルはずっとこちらを見据えている。少し怖い。
 いや、責められる点は分かり切っていた。

「弱いのに、どうしてあんなところにでてきたの」
 きっかり核心だけ突いてきた。オブラートもなしに、それは非常に痛い。確かに弱いけど。
「はっきり正論言われると心が痛むんだけど。うーん。大事な人が困ってたり、危なかったら助けるの当然だと思うよ」
 背中が割れる感覚。悲鳴は堪える。無理に大丈夫と誤魔化しながら、笑って見せた。
 ここで乗り越えなければ正真正銘の嘘になる。嘘でもつきつづければ本当になるのだ。
「僕の家、知っていると思うけど、両親があれだからいつも一人で、話し相手の友達はサボテンくんくらいだったんだ」
「ですよ」
 セティールの意識が戻って安心したのか、サボテン君は早々に鉢の中へ填っていた。
 いつも朝起きて、サボテン君におはようと告げ、朝は掃除とセティールの分だけの洗濯を行う。夕方前にドミナへ向かい、特に遊ぶこともなく帰宅しては、一人きりの夕飯を作っていた。
 暇を見つけてはペットの世話や、サボテン君との会話だけが楽しみだった。
 毎日が同じ、連続、繰り返し。1日のサイクルも1年のサイクルも大した変化がない。特に不自由はなかった。けれど寂しかった。
 何かが不足している。ぽっかりと胸の中心部に穴があるような、何ともいえない感覚。空虚。填るべきものがそこになかった。それが苦しくて、時折、胸元を握り、我慢していた。泣きたかった。
 本来なら、きちんと淋しいことを誰かに伝えれば良かったんだ。一人は嫌だと。

「暫く一緒に暮らしてて、凄く毎日が楽しかったんだ。訓練は、きつかったけどさ。ひとりでもふたりでもなくて、みんなでいるのは楽しかった」
 最初は困った。何せ部屋がセティールの分と両親の分、後は使われていない客間と屋根裏しかなかったのだ。自身と両親の部屋はともかく、客間と屋根裏は掃除を怠っていたものだから、埃まみれだった。仕方なく客間を片付けそこを寝床にすることにした。
 蜘蛛の巣が張っていたりと、散々エルに怒鳴られた。かといって、ぶつぶつ小言を漏らすのだから掃除が得意かと言えば、整理整頓は苦手な部類らしく、一向に片付かなかった。今となっては笑い話だ。
 そのくせ料理は普通にこなせるのが意外だった。サバイバル知識とも呼べるが、ついうっかり口を滑らしたときは丸一日口を聞いて貰えなかった。あれは大変だった。
 中々機嫌が直らないから、メイメイの占いに頼ったらぬいぐるみをあげましょうと結果がでて焦った。正直イメージに合わなかった。
 結局それ以外方法がなかったので、仲直りのお詫びでラビぬいぐるみと豆ぬいぐるみをあげたら喜んでくれた。無機物が好きらしい。変な趣味だと思った。また拗ねられると困るので伝えなかったが。
 今回出て行った際も、ちゃっかり2体のぬいぐるみ毎消えていた辺り、結構気に入っているのかもしれない。でもペットは可愛いけど、少し苦手で怖いようだ。何処かずれている娘である。
 食事も全部二人分に増えた。夜は明かりをつけている時間が増えた。
 最初こそ、新たな玩具への執着心に酷似していた。

「キミが自分で言ってたんだよ、人間独りじゃ生きられないって。それなのにキミは一人でどっかいっちゃうし。何処か、行くところがあったの?」
 エルは静かに首を振った。やはりあの時の少女はエルなのだろう。多分映像は詩人の魔法か何かとは予測していたが、何故こうも詳細に事情を把握していたのか。疑問だった。
「それに確かにエルの方が強いけど、僕からすれば、冒険者じゃなくて普通の女の子なんだよ。だから、ちょっとくらいつまらない意地をはりたいというか」
 言葉に詰まる、そうじゃなかった。確かに意地もあるけれど。
 セティールは改めてエルに向き直り言い直す。
「ううん、ただ、守りたかったんだ。キミ意外と脆そうだから」
 彼女は殆ど怪我を負っていない。多少擦り傷が増えたくらいだ。
 心から嬉しくて、笑みが零れた。

「怪我、しなくて良かった」

 次の途端、セティールはぎょっとした。
 涙がぽろぽろ溢れ、シーツに染み込んでいく。セティールのではない、エルが泣いていた。
 ただ狼狽するしかなかった。彼女は膝に乗せた拳を握りしめ、静かに涙していた。止まる気配はない。セティールはそっと頭を撫でた。
 泣いたことがないと記憶していた。違うのだ。
 そう、このとき彼女は確かに泣いていた。
「そっちが怪我してたら、元もこうも、ないじゃない」
「う゛、それをつっこまれると痛いんだけど。確かに一瞬ぽっくり逝きそうだなぁとは凄く感じたけど」
「死んだかと思った」
 うめき声が上がる。赤ん坊をあやすように、よしよしと軽く叩く。彼女は涙を隠そうと、賢明に指で擦るが、次から次へと流れるものだから、本人も訳が分からないと戸惑いを隠せないでいた。
 けれど感情の高ぶりは暫くすれば落ち着く。以前のセティールと同じだ。
「大怪我して、他人を守ろうなんて大口叩かないで」
「じゃあ強くなるから」
「無理、絶対無理」
「じゃあ約束する。ほら指だして。指切りげんまんーって」
 セティールは右手を差し出す。無理矢理エルの手を取り、小指を絡ませた。
 指先だけの繋がり。不思議なことに背中の痛みが軽減した。とても温かかった。

「守られてばかりかもしれないけど、その内僕、エルを超えて見せるから。強くなって、エルのことも、サボテンくんのことも、家族くらいは守れるように強くなる」
 だから約束のため、それまでここにいてほしいのだと。卑怯だなとはセティールも内心理解していた。
 指先が離れた。約束を賭けた手で、エルは目元を拭った。もう涙は止まっていた。目元が僅かに赤い。
「じゃあ、約束果たせたら心おきなく出て行ってあげます」
「ちょっ、それは酷いよっ」
「だってそういう意味だもの」
 言われてみればその通りだ。しかし本音としては可能性は限りなくゼロに近い。けれど確かに超えたい気持ちはあるが。悶々とセティールは葛藤する。
 項垂れるセティールを眺め、エルが吹き出した。声を押し殺して笑っている。
「それじゃあお手並み拝見させてもらうから、ね、セティ」
 最初は、玩具と遊ぶのが楽しいのと、同様の感情だった。
 恋とかとも異なる。家族が出来た喜び。
 泣いているのは好きじゃない。出来れば笑っていて欲しかった。
 だから笑っていてくれれば、それだけで十分だったんだ。

 空が明らんできた。ああ、もう夢が終わる。
 セティールは意識を現実へと向けた。
 そう、物語はここまで、もう起きなければいけない。
 誰かが悪態をついた。酷く聞き覚えのある声だった。

 そして光に飲み込まれた。
 目が覚めたら真っ先におはようと告げよう。バドにもコロナにも二人にも。
 笑っていられる時間が、とても愛しいから。
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最近の迷言:いつだって難産



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絶賛応援中


素敵企画を発見したので思わず。



本編目次

全14話予定

セイレーン編
第0話 世界の象徴
第1話 長くも短くもない一日( )
第2話 人魚の願い( )
第3話 鳥乙女の願い( )
第4話 寄り道道中( )
第5話 閑話休題( )
第6話 煌めきの都市防衛戦( )
第7話 旧時代
第8話 人形の願い
第9話 少しだけ長い一日

聖域編
第10話 鏡面世界
第11話 とても短い一日
第12話    の物語
第13話 聖域へと至る軌跡
第14話 ふたりぼっち
エピローグ

以降小出しにて更新中(現在第7話迄)



番外編目次

【時間軸】
ゲーム本編中:

サイト本編中:
現実と理想の差異による只の散歩
サイト本編後:
瑠璃くんの無駄に長い一日



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