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4.寄り道道中 後編

2009.02.12 *Thu
 のんびりと木々の合間を抜ければ、豆一族の集落が望めた。初めて訪れたのは随分と昔だ。実際はたかが数年前の話なのに、当時は様々な出来事が多すぎて、駆け足で過ぎ去ってしまったと感傷にふける。
 今日はいつも入り口にいるヌヴェルがいなかった。教会を放置して豆一族の解明に入れ込んでいる彼だが、ドミナの町に帰っているのか。一応管理者として教会を放置するなよとつっこみたい。
 どんな理由であれ、面倒毎が減った。彼はドミナにある聖マナ教会の管理者であるが、些か頭が固い面があった。瑠璃とは性格もあってか度々衝突していたのを目撃している。
 なおかつ瑠璃本人が既に集落に到着していたとは、半分予想していたので驚嘆にはあたらない。

「真珠姫先にきてたのか、ついでに瑠璃も」
「ついでとはなんだ」
 セティールは自然とスルーを心掛けた。バドとコロナを降ろさせ、手綱を引く。瑠璃の付近、後方のチョコボの頭を撫でた。その隣に手綱を括ることにした。
「あんた、俺は無視する気か」
「無視も何も、チョコボに愛されているなと思ったから、何も言わないだけだぞ。さてと」
 視線で他人を殺しそうと怯えていたのはティーポだったか。睨みも、愛くるしいチョコボに銜えられた状態では、へたれに大変身するものである。
 もはや反射的に瑠璃が剣を抜きとり、結果、チョコボに組み付された。達者でな瑠璃。お前に会えて嬉しかったよ。セティールは嘘泣きと共に場を離れた。マントを銜えるなと聞こえたが、アウトオブ眼中を決め込んだ。
 下方でバドとコロナがそれぞれ空気ハンカチを握りしめ、瑠璃さんお大事にと涙を流すふりをしていた。
 友情的意味合いの愛情表現とはいえ、酷い話である。

「よくここが分かったな」
「ええ、なんだかチョコボさんが張り切ってしまって、気づいたらここに」
 恒例すぎて最早つっこむのも疲れ果てました。セティールは己のスルースキルのレベルの上昇を実感した。恐らく現在Lv22位。まだまだ道のりは長く険しい。
「のどかなところですね。さっきはなんだか騒ぎ声が聞こえてびっくりしました」
「野党というか、色々あったからな、特に気にするな。森の入り口でシエラにこてんぱんにされて伸びてる」
 真珠姫の隣に腰を下ろす。四顧すれば、バドとコロナが興味深げに豆一族を観察していた。後ろをついて回ったり、何処に向いているのか判断し辛い目線を追ったり、忙しない。
 豆一族の集落といえど、特に家や、貯蔵庫がある訳ではない。特に何もない広場。それが豆一族の集落だった。特徴としては異様に巨大なキノコが群生している点しかない。傘代わりに使用しているのかもしれない。食用かは得体が知れなさすぎて実験不可能である。
 人里と異なり喧噪とは縁が遠い。実にのどかだった。この地帯だけ安寧の日々は変化しない。
「こんな風にみんなでのんびり暮らせたらよいのに、難しいですね」
「そうだな、でもそれに関しては真珠姫達次第だって考えてるけどな、俺は」
「おにいさま」
 どういう意味ですか。真珠姫は先を問いかけたかったが、セティールが首を振り話題を切ってしまった。

「真珠姫、この豆どうしたんだ」
 セティールが指を指した先に、小さな小豆が真珠姫の膝の上に鎮座していた。彼女は豆を柔らかく抱きしめた。
「いえ、可愛らしくて抱きしめたいなと、あまり触っちゃ駄目でしたか」
「駄目とかはないけどな」
 自らの顎に指を据え、真珠姫の腕に抱かれた豆を見据える。何故か顔を赤く染められた。赤くなることが出来たのか。驚嘆してしまった。
「おーい瑠璃、この豆がなんか“真珠ちゃん萌えス”とか呟いてるぞ」
 3頭のチョコボに全身の至る所を銜えられ、遊ばれている瑠璃が暴れた。声にならない叫びが上がった。
「る、瑠璃くん、顔が怖いよ」
 セティールと共に背後を顧みる真珠姫が周章する。大丈夫大丈夫と少女の頭を撫でた。
 実際、妹がいたらこんな気分になるのだろうかと思考した。だとしたら酷い兄だと我ながら苦笑する。けれど態度を改めるつもりはさらさらない。
 これくらいの距離が一番心地良いと知っていた。
「“ふとももがぁ”とか変態だなぁ」
「貴様っ!!?」
 勢いよく瑠璃が飛び込んでくる。既に抜刀直前だ。勢いを殺しつつ真珠姫の正面へ回り。
「まぁ、勿論冗談なんだが」
 あっけらかんと、手を振りながらセティールは告白した。
 瑠璃は慌てて静止すると、肩で息をしていた。むせている。マントが破けている辺り、必死で逃げてきたのが伺えた。
 悲惨なマントに関しては、大事な姫の危機と秤に掛けた結果。マントを外すという思考回路はない。
 このように少し滑稽さが垣間見えてしまうから、セティールのからかい対象になるのだ。マントの残骸はその象徴。冷静さのレベルが足りなかった。あと73年程経過すれば、ある程度は落ち着く予定ではある。

「俺はエルじゃないから豆の言葉なんて分からん。実に期待通りの反応をありがとう」
「最近あんたに対して殺意が増大しているんだが」
「HAHAHA」
「HAって……あんたが俺達のことどう思っているのか分からなくなってきた」
「いやぁ、勿論ダイスキですよ? こう、いじめたくなるくらい」
「一瞬で全身が鳥肌になったんだが」
 あれな発言に対し青ざめた瑠璃を尻目に、真珠が嬉しそうに質問を投げかけた。
「おにいさまも瑠璃くんの事大好きなんですか」
「真珠ほどではないけど、好きだよ、多分」
 多分ってなんだ。

「まっすぐなところは尊敬するよ。目の前を見て走り続けてるとかさ」
 そう、彼は真っ直ぐで純粋だ。時折羨望の眼差しを向けてしまうくらい。
 彼が自らの危機的状況を顧みず、姫の元に駆けつける所は、純粋に彼女を守りたい一心からくるもの。姫のこととなると冷静さが欠けるのもその一つ。
 また、彼は非常に仲間を大切に扱う。会話下手な所があるので最初は取っつきにくいが、一度相手信頼すると、裏切られる可能性すら捨てている。これは怖い点でもある。
 セティールは遠くを眺めた。
 人間は珠魅以上に欲深いから。多少は疑う気持ちを常に持っていないといけない。だから羨ましい。自分はまだきっと誰もいない。
 例えば、何かの理由でこちらを裏切る態度を見せれば。例えば自分を、仲間に手を掛けたり、殺そうとする等あればの話だが。
 相手を信頼していても何か事情があると察しても、心から、1点の曇りなく、完全に信用できる人は、いない。
 瑠璃であれば、いずれその領域に達しそうだなとは感じていた。彼と姫の絆は非常に強いから。
 嫉視ではなく。ただ羨ましいのだ。
 勿論本人に伝える気持ちはこれっぽっちもない。

「まぁ、そこで俺は足を引っかけて、すっころばせるのが楽しみなんだけどな」
「最低っすね師匠」
 遠くバドのつっこみをセティールは聞き逃さなかった。よし、家に帰ったらご飯抜きにしようと決意した。全く酷い師匠である。

「ところで貴方達は今夜はどうするつもりか」
 話の腰を折ってしまい悪いのだがとはシエラの言葉。
「森まできちゃうと流石にドミナまでまる1日以上かかりますからね。近くで野宿でもしましょうか」
「師匠っ、俺今日この森に泊まりたいっす。豆一族ってあまり見かけないから観察したいし」
 豆を観察しつつ、首だけこちらに向かって反応するコロナとバド。何故か挙手していた。
「あえて反対票をだしてみる」
 胡座をかき、セティールは双子に向かって手を挙げた。
「最低だなあんた」
「場を盛り上げるためには必要な行為だ、多分」
 事実、特に反対する理由はない。教会の管理者と鉢合わせさえしなければ。
 瑠璃も同意見なのか、ただの気まぐれか結局は反対票を入れた。
「師匠、弟子の夢を蹴散らすのは良くないっすよ」
「なにをいう、俺の教育主義はまず崖から突き落とせだからな」
「酷っ」
 不平不満を一蹴させる。バドが頬を膨らましぶーぶー唸りだした。
「……あの、わたしももっと遊びたいな」
 おずおずと真珠姫が賛成票を入れた。
「賛成4票反対1票により、ここに泊まるで可決だな。見苦しいぞセティール」
「ってお前さり気なく裏切るなよ」
「真珠が泊まりたいというのだから泊まるに決まっているだろ」
「いや、心底予想したくなかったテンプレートをありがとう。うん、もうさ、最初から分かってたよ。駄目だこいつって」
 セティールはつい、白眼視してしまった。瑠璃は鼻を鳴らし、受け流した。
 冷えた風が吹き抜けた。水と土の入り交じった濃い匂い。遙か上空は何処か雲行きが怪しかった。一雨くるかもしれない。

「森で一晩過ごすなら、奥に私の家があるんだ。今晩はそこに泊まるのはどうだろう」
 真珠姫の膝上にいた豆が跳ね起き、長老の元へと駆けていった。意外と足が速い。周囲の豆も一斉にキノコの傘の下へと潜り込み始めた。どうも雨風は得意ではないらしい。
「家なんてあったのか」
「貴方達が訪ねてくる場合があるからな、そのために用意した」
「犬小屋?」
「どうしてだろう、時々貴方に殺意を抱くときがある」
「俺なんてこいつを10回くらい殺しても殺したりない位だ」

 嘆息一つ、シエラは豆一族の一匹に何か話しかけ、手紙を渡した。バドとコロナも入り口に集合してくる。チョコボは比較的巨木の近くなので置いていこう。
 足下に、いつの間にか一匹の豆一族が近付いていた。チョコボとセティールを交互に見やり、一鳴きした。任せろと言わんばかりだった。眉毛が凛々しい。思わずときめきそうだ。冗談だが。
 やがて用事を済ませたシエラに先導され、ヴァディスとマナストーンが安置してある広間を通り抜けた。
 確かに台座にはいつもの姿がなかった。あの巨体がどのように動いたのか。足下や周囲を見回せど、引き摺った跡すらない。時折目視できないことがあるが、瞬間的に移動することが可能なのか。今度是非教えてもらいたい。それでも多分人間無理だと予想はしている。
 案内されたのは小さな小屋の前だった。小さいと表現しても、シエラが一人二人で生活を営むには十分な大きさだ。説明通り生憎犬小屋ではなかった。少々残念な気持ちになる。

「でも良いのかほんと、結構大所帯で押しかけてるし」
「構わないさ、幸い毛布は大量にある、ものの。簡易でも寝台が足りないかもしれないな。その場合はセティール達は床で寝てくれないか」
「雨風が凌げるなら床でも十分。お邪魔しますよっと」
 室内は大きな一間になっており、奥に小さなドアが二つある。入って直ぐ、右脇にはしごが垂れている辺り、2階が個人的な生活区なのかもしれない。
 窓際に平行に並べられた小型の2段ベッドが2台。手前には机と椅子が3脚。チェストには花が飾られていた。
 シエラの合図で双子は真っ先に上のベッドを占拠していた。狭いのでコロナとバドで一つずつ。下のベッドにはカーテンが付いており、秘密基地みたいと喜んだのは真珠姫である。
 セティールと瑠璃は2脚の椅子を占領し、何をするでもなく、ぼうっとしていた。ベッドに飛び込んだ3人は静かで、既に眠り込んでいるようだ。
 数分後、シエラが用意したお茶はきっかり3人分だった。

「そういえばラルクはどうしてる」
 受け取ったお茶は鮮やかな赤色をしている。一口飲むとベリーの味がした。ハーブとビーダマンベリーをブレンドしたお茶だ。以前エルがシエラに教えていたブレンドの一つである。
「この前会ったが元気そうだったよ。最近では白の森近くまで身体が持つようになったらしいが、あまり無理はしてほしくないのが正直なところだ」
「あれも重度のシスコンだからなぁ」
「姉としては先行きが不安だが、嬉しいものだ」
 瑠璃が顔をしかめた。お茶が殆ど減っていない。ふと、シエラは苦笑しシュガーポットを持ってきた。甘みのある薬草は存在するが、このお茶には最初から混入されていなかった。
 彼のように慣れない人間には独特だが、フィーグ雪原や、寒い地方の人間にとっては栄養補給の意味で乾燥した果実をお茶にするのは普通である。けれど確かに昔旅をしていて初めてこれを出されて飲んだときは、あまりに酸っぱさに飲めなかったなと、セティールは胸中ぼやいた。
「いかにもわんこな感じに、ひっついて回ってるのがか」
「わんことはっきり表現されるのもあれかもしれないが、それが家族というものだろう。違うのか?」
「いや、よくわかんないけど」
 特に追求してこなかった。シエラは僻目することがない。彼女の態度に、少し安心した。追求されても答えるのが難しかったのだ。
「家族、か」
 自分の両親は今、何処を旅しているのだろうか。



 水の音がする。
 目が覚めた。
 夜。微かに風に乗って錆びついた匂いが漂ってきた。毛布から這い出て起きあがる。寝台の4人は深く眠っていた。
 あれからエル以外皆夕食をとり、各々体を休めることにした。バドとコロナは戻らない彼女に少々不安げだったものの、セティールがなだめ渋々納得した様子だった。
 脇に常備しておいた大剣をベルトで固定し、ランプを手に取った。火種はない。
 玄関を出て直ぐ、シエラが遠く一カ所を凝視していた。

「どっちからだ」
「いや、もう騒動は終わったようだ。争う声もしない。受けていたのは恐らくエルではないか。剣を流す音が彼女のものと酷似していた」
「音でわかるんかい」
 一歩前に出る。雨が降っていた。霧のように細かい滴が降り注がれる。冷たかった。
「シエラは寝てていいぞ、俺は例の家族とやらを迎えに行ってきますよ」
「ああ、けれど無理はするな」

 背を向けた状態で、手を振った。
 方角は恐らく正しい。雨に打たれるのも気にせず、セティール足早に目的地へと向かい始めた。
 嫌な予感がしたのだ。
 そう、本当に雨が降っているなんて知らなかったのだ。
 確かに彼女の実力から無意識に大丈夫だと思いこんでいた節がある。直ぐに来るだろうと。だからこそ、玄関先でベッドを瑠璃に譲り、待っていたのだから。真っ先に遅いことに対し文句を言うためだけに。
 果たしてどれくらい歩いたか。星も月もなく、とても暗い。呼び出した精霊の光だけを頼りに進んだ。足下草が泥を被り踏みつけられたところ、所々枝が折れている特徴から、目的地が近いと推測できた。
 光がなければ殆ど目で確認することができない。いくら注視してもあるのは闇。昼間の穏やかな森とは思えない暗さだ。
 やがて暗闇の中、一本の古木にもたれ掛かる彼女がいた。光に反射して白金が淡く輝いていた。所々泥水で汚れている。
 無事ではあった。傍らにしゃがみ込む。
 彼女は瞼を閉じていた。背を預け呼吸は薄い。気配がセティールのものだからか、無意識に覚醒もしない。

「ふむ……」
 唸る。とりあえずセティールはランプを地面に起いて、おもむろに鼻をつまんでみた。
 一応念の為、年頃の女性に対する行為ではない。
「あ、口呼吸に移動した」
 続いて口もついでに塞いでみた。さて、この人は少女を迎えに行ったのではなかったのだろうか。
 微かに肩が動いた。目覚めた。焦点の定まらない瞳と目が合い、ゆるりと彼女が右の手を差し出してきた。
 殺気。

「っと、左から来ると見せかけて、右からってオチは読めたっ」
「甘い、下」
 エルは一瞬でセティールの両手を払う。左の手を地に着け、重心を低くし、伸ばしたままの足でセティールの足下を払った。
 屈んだ状態と不安定な体勢もあり、あっさりセティールは転倒した。幸いにも泥地面との顔面キスだけは免れた。あれは非常に切ない物があるので、できればやりたくない。
「怒ってるだろ」
「少しね。いくらなんでも、鼻も口両方塞ぐのはどうかと思う。間抜けな顔、恥ずかしいし」
 彼女は手の泥を払い、髪の泥もとろうとしたところで、こびり付いている事実に愕然とし、溜息をついた。
 軽く本気を出され簡単に負けたセティールは、少々悔しい思いを感じつつも、発端を作ったのは自分だなと、何か発言することはなかった。
 雨も小雨で泥を流せない。セティールは諦めて、彼女の隣に腰掛けた。
 先程は気をとられて分からなかったが、古木の背後に何か山積みになっている物があった。

「で、そこら辺でのびてるのは何だ」
「うるさかったからはり倒したの」
「左様で」
 死んではいないが、こう、暗がりの中倒れ込まれていると不気味さに一層拍車が掛かる。古木の下、雨水が掛からないのだけがせめてもの良心だった。
「てっきり豆の所にいると思ったんだけどな」
「いたんだけど、長老と話してたら色々考え込んじゃって。シエラの伝言も聞いたから、家の位置も知っていたんだけど、ね」

 エルは腰にぶら下げた道具袋から手紙を取り出す。案の定昼間シエラが豆に渡していたのは地図だった。
 昼間は暑いとはいえ、夜は大分涼しさを増してきた今日。流石に雨に濡れた身体が冷えてきた。彼女も両手で肩を抱いている。
 セティールが訪れるまで、明かりのない場所で戦い、暗がりの中闇雲に帰ることもできず、ただじっとしていた少女。
 正直そこまで心配はしていなかった。ここで発見するまでは。まさか何の明かりもなしにいるとは想像していなかったのだ。セティールもエルも所持品に必ず小振りのランプを持ち歩いている。洞窟や、こんな雨の夜等完全に暗闇の際光がないと歩けないのは当然だからだ。
 彼女は何も持っていなかった。もしかしたらチョコボに預けたままなのかもしれない。失念していた。
 暗闇の中歩くのは完全に視覚を奪われた状態だ。恐ろしくて、前にも後ろにも進めない。その中で戦い、じっと耐え続けた。何者なのか見えない相手と戦う恐怖は何度か経験しているが、慣れるものではないし慣れたくない。どんな気分なのかは推察することも躊躇ってしまう。
 エルは責めてこない。彼女の性格から、自分自身の責任だと認めているからだ。
 だからセティールは謝ってはいけないと知っていた。こういう場合謝ると彼女は激怒する。しかし、実際は旅に慣れている彼女なら大丈夫だろうという先入観を信じ切っていたこちらにも非がある。
 無言のまま、雨音だけを聴いていた。
 不意に肩に重みが掛かった。エルが頭を乗せてきていた。

「トレジャーハンターとかさ、それで生計建てている人もいるし、綺麗事だけじゃ生きていけないって知ってるけど」
 小さく呟く度、振動が伝わってくる。肌に触れた部分だけ、温かかった。
「食べ物食べるのも、こうして不自由なく暮らしているのも、何かを犠牲にして、殺して、その上で成り立ってる。だから常に感謝の心を忘れない。それは当然だけれど」
 溜息をつかれた。
「なんだか哀しいね」
「何の話だ」
「こっちの話」
 立て掛けていた槍が倒れた。視線を一度向けただけで、二人とも今は拾う気になれなかった。
 温かかったから。こうしてぬくぬくくるまっていたかった。

「戦争とか、奪い合うのは、嫌い」
「結構好きこのんで喧嘩に飛び込んで、周囲吹っ飛ばす奴の台詞とは思えん」
「あれは、まぁ、ちょっと違うから。うん、でも傍目には一緒なのかな?」
「知らん」
 軽く笑って見せた。
 雨音は歌。恵みの雨、命の歌を聞き続けた。徐々に旋律が遠くなる。
「集団の思想と思想の奪い合いは怖いよ。どっちも大きくて、信念持ってるから。でもどうして他の道を探そうとしないのかな」
「面倒なんだろ、多分」
「かもね」
 雨足が弱くなってきた。最早殆ど降っていない。しかし星はない。空は未だ厚い雲に覆われている。

「奪い合いの元なんて、なくなっちゃえばよいのにね」
「手を取り合って生きていくことも知ってほしいぞ」
 どちらも夢物語に過ぎないのか。
 大きく息を吸い、長く、細く吐いた。
「迎え、来るの遅れてごめんな」
「いいよ自分のせいだし、でもありがと」
 謝罪しても、彼女は怒らなかった。きっと星も月もなかったせいだ。
「戻るか」
「うん、行こう」
 差し出した手を、強く握りかえされた。
 あの後、シエラはずっと玄関先で待っていてくれた。セティールと同じく犬小屋発言をしたエルに対し、少々こめかみがひくついていたのはご愛敬。
 出されたシチューに、エルが温かいと零したのを未だに覚えている。



 翌日になれば雨は上がり至って快晴。かなりの熱気だ。正直暑い。こんな炎天下の中帰らなければならないのか。実に憂鬱な気分である。
 今日も今日とて豆一族の集落にやってきたが、心なしかキノコが一回りほど巨大化していた。考えないことにした。スルースキルレベル23到達。
 バドとコロナは飽きもせず豆を追いかけて、行動を観察している。真珠姫は豆を膝に抱いてうたた寝中。寝起きだというのにまだ眠るとは。
 セティールは入り口のチョコボの頭を撫でた。嬉しそうに目を細めてくる。
 たまにはこんな日も悪くない。

「あれ?」
「どうした」
「なんかね、真珠ちゃんに抱っこされてる子“真珠ちゃん萌え”だって」
 隣で同じくチョコボの世話をしていたエルが、唐突に爆弾を落とした。
「ま、マジでそう言ってたんすね」
「大体種族が違うのに……ペットに対する愛情と同じものなのか、わかりたくない」
 運悪く耳にしてしまったバドとコロナが呻く。
「因みに長老は熟女萌えだって」
「頼むからお前もう喋るな。身内に犯罪者が出る」

 先刻から、瑠璃が鬼の形相で豆を睨んでいた。流石に豆をいじめたら二度と集落には入れて貰えなくなる。その前にエルが瑠璃を勢い余って殺害しかねない。少なくとも半殺しは確定事項だ。
 よく状況を把握していないのか、彼女が首を傾げた。
 セティールは片手で顔を覆い、溜息をついた。昨日から随分と幸せが逃げたものだ。
 だから意味もなく、エルの頭を撫でた。
 まぁ、きっとこんな日も悪くない。
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やなぎめし

Author:やなぎめし
最近の迷言:いつだって難産



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絶賛応援中


素敵企画を発見したので思わず。



本編目次

全14話予定

セイレーン編
第0話 世界の象徴
第1話 長くも短くもない一日( )
第2話 人魚の願い( )
第3話 鳥乙女の願い( )
第4話 寄り道道中( )
第5話 閑話休題( )
第6話 煌めきの都市防衛戦( )
第7話 旧時代
第8話 人形の願い
第9話 少しだけ長い一日

聖域編
第10話 鏡面世界
第11話 とても短い一日
第12話    の物語
第13話 聖域へと至る軌跡
第14話 ふたりぼっち
エピローグ

以降小出しにて更新中(現在第7話迄)



番外編目次

【時間軸】
ゲーム本編中:

サイト本編中:
現実と理想の差異による只の散歩
サイト本編後:
瑠璃くんの無駄に長い一日



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