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3.鳥乙女の願い 後編

2008.11.25 *Tue
「流石に、うう、寒くなりそう」
少女の呻き声が上がった。
槍や短剣、サイドバック等塩水に弱いものは全て浜辺に投げ捨てられていた。セティールも波打ち際に近付く前に、適当な岩に装備品諸々を放置してきた。潮風すら錆の元になりそうで怖い。なおかつエルのことだ、嫌がらせで海水を掛けてくる可能性が高かった。間違いない。
月明かりが綺麗だった。淡い光が注ぎ、海面を照らす。反射した月光が闇夜に慣れた目にはただ眩しかった。
鳥かご灯台は魔物も寄りつかないらしく、かにすら一匹もいない。うっそうと生い茂る森林が背後にあり、不気味さが増すものの、こんなにも穏やかな夜なのだ。何も起こらないと信じよう。

「ばーか」
足下で水滴が跳ねた。
エルは腰に両の手を当てている。既に全身ずぶ濡れで髪の毛の重量感が目立つ。月を背負い影が浮かび上がった。

「ふ、馬鹿にしたね。大丈夫大丈夫、騒げば身体も温まるでしょ。だから……あんたも道連れだああ!」
「んなっ待て、俺は帰ってからでうわぁぁあああ?!」

まず突っ込まれ、みぞおちに一発もろに入った。しかも腕を引っ張られる最中、あまりの早さに足を取られ、もつれたまま波間に飛び込んだ。盛大に水しぶきが上がる。剣を置いてきて良かった。セティールによる悪い予感の的中率は異常だ。
そして塩水が鼻に入った。痛い。

「お前な、帰り急いでるんだぞ一応。遊んでどうする」
エルを退かし上半身だけ起きあがる。海水が流れ落ちた。衣類が非常に重い。肌に触れる感触が冷たく、風が吹けば身体が冷え、ついでに帽子がずり落ちた。水を吸って重くなったしまっていた。仕方なく浜辺まで放り投げた。ついでに先刻拾った花も帽子の中に入れておいた。
ブレストプレートもあとで手入れをしておかないといけない。まともに塩水につかっているのだ。これでは錆びてしまう。頭が痛くなる。

「えと、みずもしたたるいいおとこ?」
全くの場違い発言に、セティールはついのし掛かっていたエルの肩を押してしまった。とんっと軽やかに、彼女が後頭部直撃で海面に沈んだ。しかも波打ち際なので、もろに身体全体が押し寄せる波に襲われる。
鬼の早さでエルが飛び起きた。同じく鼻に入ったのか、口元に手を当て苦しそうに咽せている。

「あのねぇ?! 仮にもあたし女の子なんですけどっ」
「気のせいか、俺の知り合いに女の子ってイメージと符合する女がいないと思うんだが、はて」
「喧嘩売ってるのかな」
「勿論」

下方から繰り出された拳を必死で受け止める。容赦なし。
自らに非があると半分は認めているのか、エルは舌打ちしたものの、すぐに諦めてくれた。しかし舌打ちの時点で女の子らしさが半減することに本人は気付いていないのだろうか。
もうほぼ全身浸かってしまったのだ。今更ながら緑の体液はほとんど落ちていた。もともと特殊な水溶性なのかもしれない。現に染みとなっていた布地も今では元通りになっている。もしくは海にマナを根こそぎ持って行かれたかのどちらかだ。マナの残滓すら感じないのだから後者と推測した。世の中には未だに不可解な現象が多い。
だがコロナに怒られる心配はないと安堵した。人間自分の保身が一番である。
エルはしばし仰望していたが、手元を掬い見下ろす。指の隙間から海水が零れていた。

「海って不思議。昼間は蒼いのに夜はこんなに黒い色を取り込んで底が見えない。二面性っていうのかな。でもちょっと怖い」
一旦言葉を切る。
「飲み込まれそうで、怖い」
「お前も母親の胎内にいるときはこんな感じの世界だぞ。もうちょっと肉っぽいけどな」
「最後の言葉で台無しだね」

あははと乾いた笑いが響く。
誰よりも一番傷付いているような顔で、眉一つ動かさなかった。
泣く素振りなど一切ない。
彼女が泣いたところを一度も見たことがない。
きっと泣き出すことはない。
それでもこの纏う空気を拭い去りたかった。
どちらかというとこれは保護者としての意識が強いのだ。つまり過保護である。それだけだ。セティールは己に対し諭した。

「新しく生まれるのは誰だって怖いんだよ。赤ん坊もそうだろ。泣いて、親に自分を真っ先に知らせる。本能的に感じてんだよ。安全に暮らせる場所から出て行かないといけないんだしな」
昔、母親に聞かされた話だ。
彼女の手を引き、立ち上がらせる。
「それと混同させやすいんだろ、海は。だから今、エルが怖がる必要はない」
瞠目された。改めて目が大きいなと思った。澄んだ碧眼に自分の姿が見えた。何を考えているのか分からない顔。セティールは視線を逸らし、水平線を見据えた。
本当に何を考えているのか分からない。それは誰に対してなのか。

「えと、気を遣ってくれてるの、もしかして」
「受け取り方もお前次第。俺は知らん」
エルは困惑し両の指を胸の前で絡ませている。唇が動くものの、声が出ていない。発言するかしまいか躊躇っている様子だ。
柄にもない台詞を口にした。セティールは背を向け、海から出ようとした。

「あ」
エルの叫びに、足が止まる。顧みることなく背骨に衝撃が奔った。砂浜を軽く身体が滑る。非常に痛い。
「隙だらけよセティール。何よりあたしの目の前で手を出すなんて十億万年はやいわよ」
なんというツンデレ。
しかし一泡吹かせるとはまさにこのことだ。セティールは突如出現したフラメシュに尾びれアタックをくらわされ昏倒した。頭に至ってはやや地面にめり込んでいる。

「そこまでのことしたか、俺」
「さっき間違いなく殺しかけてたけどね」

砂に埋もれた顔面を引っこ抜く。ダメージ自体は大したことない。地味に鈍痛がある。起立し、素肌に食い込んだ砂を払った。
振り向けばエルの隣にフラメシュがいた。視界の端には鳥かご灯台。そこから二人の人影が映る。
セティールは己の境遇に嘆息した。普段瑠璃に対する行為を返されると複雑な気分に陥る。自分が嫌なことは他人にもしてはいけない。だが反省はしない。
砂浜に放り投げていた帽子を取る。濡れそぼっており、とても被る気にはなれない。仕方なしに腰のベルトにくくりつけておいた。
フラメシュは退屈げにうつぶせになり、頬杖を付いていた。

「結局エレだけど、行くってさ。あれだけ嫌がってたくせに。あんた達の言葉なら簡単に頷くのよね。酷い話よまったく」
くしゃみ一つ。エルが海からあがってきた。水気を吸った衣類と髪を絞る。滝が出来た。
出てきた後も完全に冷え切ってしまったのか、両腕で身体を抱えている。いくら夜間が暑くなったとはいえ、海辺は冷える。
「大丈夫? ごめんなさい待たせてしまって。火をおこしましょう。楽器を使えばなんとかなるわ」
エレが鮮やかな翼を広げ、彼女の身体を抱擁した。首を振りそっと拒否の意を示す。
「ん、ありがと。でも良いよ動けば温まるし、乾くから、多分。羽根も塩水つくと悪いよ。エレは花火大丈夫かな。結構初めてだと怖いと思うし」
「大丈夫です。でも一つだけお願いがあるの。できればマドラ海岸で花火出来ないかしら」
エレは続ける。
「だって町中で騒いだら迷惑でしょう」
確かに、日は完全に落ち、辺りは暗い。夜が更けていく。無論この一帯ですら静寂に包まれている。
セティール達も普段は暗い中出歩くことなどない。あまりにも危険だからだ。ましてや町の一般市民なら町の外になどでないし、床に就くのも早いはずだ。確かに安眠妨害しかねない。苦情ものだ。

「そか。じゃあ急いで呼んでこないと」
「全員一緒に来れば良かったな。往復時間かかるからな、参ったな。宿にはどう連絡付けておこうか」
本来なら連絡係は一人で十分なのだが、今回一人一頭とチョコボを連れてきてしまった。流石に人数を考えると2頭では無理がある。仕方なく二人で一旦帰ることにした。
「ごめんなさい」
「エレのせいじゃないよ。単純に、簡単なことに気付かなかったのが悪いんだから」
エルは謝罪を手で制した。腰元のバッグから木の笛を取り、息を吹き込んだ。地鳴りがした。音に釣られて二頭の足音が徐々に近付いているのが分かった。戦闘の最中、チョコボには適当な場所に隠れるよう躾けてある。もっともある程度訓練を施してあるので、ここ一帯の雑魚にやられるほど弱くはない。
セティールは一足先に駆けたエルを追いかけ、後方で立ち止まった。
「やべ、忘れてた。エレこれやる。塩水被ったからすぐ枯れるかもしれないけど」
「はい?」
「さっきドリアードが置いていったやつ」
エレに向かって一輪の花を投げた。彼女は慌てて腕を伸ばす。花は弧を描き小さな掌に落ちた。か細い指先が茎を摘む。しばし唖然とし、まじまじと見つめていた。
リュミヌーもそれを覗き込む。フラメシュに至っては訝しげに眉をひそめた。
特に深い意味はないのだが、エレに贈るのが一番のような気がした。花に囲まれているイメージが強いからだろうか。
「カサブランカかぁ、残念。赤い薔薇とかだったら面白かったわね」
リュミヌーがのたまう。
つい吹き出してしまった。
「流石に俺でもそれは引くぞ。馬にでも頼め馬に」



「おったのしみ、おったのしみの花火。ねずみは瑠璃へ投げつけろっ」
「よっしゃいくぜ。ねずみ乱舞三連撃。瑠璃めがけてごー」
「殺す気かぁぁぁああああ」
瑠璃の絶叫が木霊した。
セティールとエルが放り投げたネズミ花火をかいくぐって波打ち際へと逃げる。ここまでくれば火も自然鎮火するだろうと考えたのか、立ち止まり振り返ったところで、瑠璃の顔面をネズミ花火が襲った。どう考えてもわざと放り投げている。危険なのでよい子も、悪い子も止めましょう。

「瑠璃くんねずみ好きなのかな。はい、私の分もあげるね」
炎の付いたねずみを瑠璃めがけて投げつける真珠姫。無論他意はない。他意、は、ない。大事なことなので2回言いました。

「真珠、気持ちは嬉しいが出来れば火種のない奴を、ぐはあっ」
本日2度目の火炎攻撃をまともに浴びていた。顔面が大火傷になっていなければよいが。
猛烈な勢いで水面に顔面を突っ込み冷却し始めた瑠璃を見てか、真珠姫は慌てて彼に駆け寄った。彼女は彼の隣で膝を突き憂患からくるものか、表情が沈んでいる。ドレスは塩水に浸かり、暖かいとはいえ、姿自体はとても寒そうだ。
彼は少女を案じ、多少焦げた髪のまま外套を脱ぎ、彼女の肩に乗せた。
非常に困った。あまりにも二人の世界にのめり込んでいるため、ちょっかいを出せなくなってしまった。セティールは後悔したが遅かった。あとで倍返しにしていじめてやろうと考える辺り、あまりにも性格が悪い。
不意に傍らのエレに目を遣ると、彼女は遠い目をしたまま、ぼんやりと突っ立っていた。半分魂が抜けている。

「どうしたんだ、突っ立って」
一拍程間が空いた。
「……シュールですね」
絞り出した言葉は、いささか引きつっていた。
「まぁ、いつものことだしな」
「そ、そうなの……」

あくびが出た。セティールは軽く身体を伸ばす。
近くで、花火を配り終えたコロナがエレを見上げた。
弟は置いてきぼりを食らい、むしろペットのチョコボに花火で攻撃されて逃げまどっていた。チョコボのくちばしに花火が器用に銜えられている。非常に珍しい光景を見た。火花をまき散らすチョコボの誕生である。

「すみません、二人とも馬鹿なんです。エレさんにも無理矢理付き合わせちゃったみたいで」
「そんなことっ。ただわたし、大勢の人と話すことがほとんどなかったから、緊張しているだけなの、ごめんなさい」
謝るエレにコロナは首を傾げた。その後自ら握っていた花火の内、一本を彼女に差し出した。
ひも状の細い紙切れに、今度はエレが頭を傾げた。眼前のそれをまじまじと見つめる。
「線香花火です。挑戦してみますか」
合点がいった。
「あ、ありがとう」

柔らかく口元に笑みが浮かんでいる。花火自体開発されて間もなく、彼女自身この浜辺で見るのが初めてだろう。
おそるおそる端をつまんだ。ゆらりと風で先端が揺れた。

「じゃあセティールさん、あとは宜しくお願いします」
「どこいくんだコロナ」
「馬鹿な弟を回収しに行ってくるんです。なんだかチョコボだけさっき帰ってきたんですけど、バドがいなくて」
「まぁ、一応ある程度鍛えているから大事ないと思うけど」
「念の為もありますから、けどあんまり心配しないでください。調子に乗るんで」

姉の言葉に苦笑した。セティールは肩をすくめ、本気で様子がおかしかったら助けに行くとだけ幼い姉に伝えた。
去り際に一本花火をくすねた。
コロナは自らのチョコボを呼び寄せ、背に跨った。チョコボの口元には今にも盛大に火花が炸裂しそうな花火がある。本当に助けに行く気があるのか疑わしい。
駆けるチョコボの横をリュミヌーが飛んでいた。風が吹き、髪の毛を押さえながらエレの側まで近付いてきた。

「あらエレ良いもの貰ったわね」
リュミヌーは既に何本か花火で遊び終えたのか、燃え尽きた紙の棒を何本も握っている。もう片手には火種用のランプ。ランプの使用方法が間違っている。
「フラメシュは」
「あっちで逃げてる。暑いと乾きやすいのかしら、やっぱり」

指し示す向こうに、水面から頭を覗かせているフラメシュの姿があった。流石に暑いのは苦手のようだ。
セティールは特に何をすることもなく、ぼんやりと周囲を眺めていた。一向に二人の世界から戻ってこない二人に別の意味で痺れを切らしたらしく、エルは先刻瑠璃と真珠姫の元に特攻していた。あえて視界に入れないよう気を付けているが、叫ばれた技名が耳に入ってしまう。これで瑠璃、むしろ真珠姫と目が合うと非常に気まずい。野次馬根性に駆られる寸前でなんとか踏み止まった。
傍ら、オレンジの光が強まる。精霊の光が勢いを増し、紙の先をちりちり燃やす。独特の火薬の臭いがした。

「綺麗ね」
小さく火花が舞う。
「うん」

大輪の華を咲かせ誇らしげに火花を散らす。火の粉ははじけ、飛び散り、命が消えていく。
色とりどりの変化を見せるわけでもなく、ただ、炎の花を咲かせる花火だった。しかし何故か印象が強く残る。一瞬の煌めきが一層儚く感じるのはどうしてだろうか。
光は弱々しくしぼんでいく。オレンジの涙が零れた。
それでおしまい。
残った紙には他の花火と異なり、硝煙の残り香や焼け焦げたあとすら残っていなかった。
エレは目を伏せていた。睫がとても長く、影が出来ている。場違いな考えではあるが、愁いを帯びた横顔は確かに美しいと感じた。馬が惚れるのもよく分かる。

「お話ししておきたいことがあるの、良いかしら」
不意に、エレがまっすぐにこちらを見つめてきた。
彼女は一度軽く頷いた。何処か迷いのある表情で、それでもしっかりと目を逸らさずにいる。セティールは感心した。

「本当は、わたし、故意に船を沈めたんです。でもその後で怖くなっちゃって」
「どういうこと?」
「のぁ!?」
空気を読まず、そして気配を感じさせず、セティールの脇からエルが顔を出した。
ある程度気を配っていたが、完全に油断していた。むしろ気配の殺し方は相手の方が一歩上手らしい。脈拍が幾分か速くなり、落ち着かない。
「お前何処から沸いてきた」
「背後から」

そういう意味ではない。
傍らのリュミヌーが軽く手を挙げ、自分が呼んだと告げた。2人とも聞いて欲しいとのことだ。
半歩前に出る。リュミヌーが口を開いた。

「私からも説明するわ。最近帝国の軍人が増えてきていると思わないかしら。数ヶ月前まで全然いなかったのに、今じゃロアにも居着いているのよ。おかげで空気がぴりぴりしちゃって」
「そういえば確かにそうだな。何か騒いでいるけど本国で何かあったのか」
「あの人達、多分、フラメシュを探しているの」
エレの声は心なしか震えていた。彼女にとって重大な告白らしく、怯え方からまるで懺悔の様だった。
リュミヌーが軽く彼女の肩に手を置いた。大丈夫と小声で囁いている。
「人魚の伝説は知っているかしら」
しばし頭の中を整理してみよう。キーワードは人魚。鍵を使い箱を開けるイメージを浮かべる。幼い頃読んだ物語を思い出した。


昔、恋をした人魚がいた。
彼女の世界は深く暗い水底。毎日毎日、ほのかに差し込む地上の光に憧れながら、やがて年が経つにつれ、何度も何度も海底と水面を行き来した。
彼女は確かに、太陽に恋をしていた。
しかし当時生まれたばかりの人魚種は、長い間強い日の光にさらされるのを苦手としていた。もとより深海の気圧の中でないと、生きるのが難しかった。水面から顔を出すのさえ苦しいのだ。
けれど彼女は諦めなかった。日の光さえ、彼女には痛みではなく、心地よさまで感じていた。
ただ、嬉しかった。近付けるだけで嬉しかったのだ。
そんなある日、彼女がいつものように水面から顔を出すと、急に視界が網目状のものに覆われた。あまりにも陸に近付きすぎたため、物珍しいと思った人間が生け捕りにしようとしたのだ。
彼女は慌てた。身体が苦しかった、息が出来なかった。何よりも人間が怖かった。他人が怖くて仕方なかった。
為す術もなく浜辺に打ち上げられ、徐々に水分が失われていった。好奇の目に晒され、彼女は死にたいとも考えた。
すると急に、その身体が真っ赤に燃え上がった。人間は驚き、一目散に逃げ出した。
髪を腕を尾ビレを、全身に炎を身に纏う。あまりにも絢爛たる姿だった。火の粉が舞い、妖精が狂ったように歌った。
彼女は呆然と、仰向けに倒れた。この時炎の痛みも、日の光による痛みもなかった。感覚すらなかった。
しかし彼女は歓喜した。手を伸ばせば届きそうなほど、太陽がはっきりと見えた。
けれどあまりにも強すぎる光は彼女の瞳を焼いた。
きっとこの炎は怖がる彼女を守ろうと、太陽が炎の衣で守ってくれたのだと。愛するものが精一杯自分を守ってくれる事実が何よりも嬉しかった。泣こうにも、涙すらすぐに蒸発した。
しかしその愛情はあまりにも強すぎたため、炎により彼女の身は焼かれ、息絶えることとなった。
人魚の愛は強い想いとなり、それ以来、太陽は人魚を心配し、彼女達を守ることとなった。
身を焦がす太陽の想いを断ち切る方法はただ一つ。自らの愛する者を炎で包み込み、私はこの人を愛している、だからあなたの想いはいらないと伝えること。
だたし結局はどちらかが死ぬしかないため、人魚は水のある場所から遠くへ離れてはいけないこととなった。
確か、その姿を模してこう呼んだ。

「そう古くからの言い伝えで、彼女達は自ら引き上げられると全てを、水さえも燃えつくす煉獄の妖女になるの。これはご存じかと」
「でもそれはただの伝承だろ。実際誰も記憶にないわけなんだし」
「けれど彼等には関係ないの。嘘でも本当でもとりあえず手に入れたいのよ。皇帝が死ぬために」
骨の城で、ドラグーンとなり命を長らえ続け、ついには人の原型すら止めていない不死皇帝。
確かにあの時の彼は、半ばドラグーンという状況を疎ましいと感じているようだった。

「わたしあの日海原を飛んでいたの。風が気持ち良くて穏やかな日だった。そうしたら遠くから船が来て、あの人達わたし達の姿見るだけで怖がるから、わたしも怖くて船の横に隠れたの」
隠れる場所すらない海原で、彼女は焦燥に駆られたのかもしれない。隠れるという選択肢を選んだことが、その余裕のなさを表していた。
「どうしてわざわざそんなことしたのか、遠くに行けば良いのに今でもよく分からないの。そうしたら声が聞こえてきたわ」

彼女は言う。皇帝が最高の火器を求めていること。
彼女は言う。それがポルポタにあるという情報を掴んだということ。
彼女は知る。そしてそれらが現在彼等しかしらない極秘任務だと言うこと。
そうして彼女が笑い飛ばした昔話を思い出した。

「頭が真っ白だった。まさかって考えている内に見つかってしまって。網であっさり捕まっちゃった」
彼女は泣いていた。両腕で身体を抱きしめて、必死に震えと戦っている。逃げ出したいはずだろうに、しかし彼女は弱く儚くも強かった。
セティールは彼女の後方の海辺を一瞥した。フラメシュが波に揺られていた。
「でもこのままじゃあフラメシュが危ないから、何があっても。大事な人だから、大好きだから。誰よりも一番に守らなきゃって……それで歌ったの」

以前バーンズの海賊船が気合いでセイレーンの歌に耐えた出来事があった。
しかし耐えたと言っても事前に歌が来ると分かっていてである。分からない状態で、船に異常が起き魔物が襲ってきたら、それこそ発狂してもおかしくない。
歌いながら、眼下の光景がどう映るのか、見た事なんてない。見たくもない。
戸惑い、狂い、我先にと逃げだし。それがどれだけ醜く、儚く、美しい命の散り際なのか。
けれど彼女は天秤を傾けた。

「駄目だって、そう、分かっていたのに」
消え入りそうな声で呟かれる。手を組み、語る姿は神に祈っているのかと錯覚した。
しかし幾ら極秘任務だからといって、彼等の死が彼等の故郷に知れ渡らないというのは、あり得ない。
「現にポルポタには帝国の兵士で溢れかえってる。フラメシュはエレの事もあって自然と身を隠しているみたいだけど、いつ見つかるか分からないな」
「ええ。だから私、エレにその話を聞いた後フラメシュにわざとエレが捕まっているって教えました」
事情を知っている人も見つかるとまずいから、帝国兵にばれないよう身を隠せと伝え。エレは自ら鳥かご灯台に籠もる予定だったが、運悪く帝国兵に捕獲されそのまま閉じ込められたという。
そこではたと、気付いた。

「つまりなんだ、俺等の苦労全く意味ない」
「あ、それは、その……本当にごめんなさい。歌えばすぐに出られるのあそこ」
涙をぬぐい、うなだれるエレ。傍らの少女が気怠げに肩をすくめた。伸ばした腕はそのままくしゃりとエレの頭を撫でていた。
「本当にごめんなさい……」
「まぁ、事情が事情だからしょうがないけど。でもどうしてフラメシュに伝えてないの。狙われてるって」
「負担かけたくないからだろ」
頭を撫でながら、エルは首を傾げた。
「仮にも船を沈めた。直接的な原因じゃないといっても、その理由の延長線上にフラメシュがいる。で、エレは船を沈めたくないという気持ちが強い。フラメシュのせいで嫌々沈めた、みたいにとられても不思議じゃないだろ」
一方的な決めつけだと自嘲したくなる。
「人間マイナスの方がイメージしやすいし自己を投影しやすいんだ。悪く言えば被害妄想なんだけどな。これが中々難しいものなんだぞ。まぁ、実際の思惑はどうだか知らんが」
知りたいとは思わない。セティールは続けた。
「でも二人には伝えておこうと思っていたのよ。迷惑をかけてちゃったし」
「更なる迷惑が舞い込んできたけどな。睨むな、本当のことだろ。まぁ、大して気にしちゃいないけどな。俺もエルも」
こちらも実際の思惑は踏み倒し、面倒なので一括りにしておいた。

「とにかく今後もフラメシュは特にポルポタに近づけたくないし、そうさせないわ」
「友情破壊しかねないけど大丈夫なの?」
「これくらいで壊れてたら友達なんて呼べませんもの」
リュミヌーは胸を張り、自信に満ちた声で答えた。

「うーん、まぁ、どちらにしても今は楽しもうよ。なんかほらさっきからフラメシュ怖い目で睨んでくるの。睨まれてるの主にセティだけど」
「だからなんであいつは俺を目の敵にするんだ」
「自業自得だと思うけど」
エレとリュミヌーがフラメシュの元へと急ぐ。セティールは歩を進めようとして、止めた。
ポケットからくすねた花火を取り出しかけ、元に戻した。
エルは一歩も動かなかった。

「あれってつまり非常事態には助けてってことだよね」
声音はいつもと変わらない。それでも、淡泊に聞こえるのはどうしてだろう。
セティールはつい溜息をついた。そのまま砂浜に座り込み、仰向けに寝転がった。
「どうするの」
瞳をキラキラ輝かせたまま、彼女はセティールを覗き込んだ。頬にかかる髪がやけにくすぐったかった。
さて、どれに対しての問いかけか考えてみる。
1彼女らとこれからも付き合うか、助けるか否か。
2良い人のまま、自分達は他人の言動に左右され続けるのか否か。
3どれでもない。他の意味。
セティールは選択を止めた。

「さぁ、時と場合による」
とりあえず面倒なので全部放り投げてみた。
「とかいってお人好しのセティールさんは全部ひっくるめて助けちゃうんだよね」
エルは笑顔を浮かべ、ぱたぱたと手を振ってみせる。そっと覆っていた身体をどけ、隣に座り込む。
「……馬鹿みたい」
「聞こえてるぞ、フラメシュかお前は」
尚かつ、一寸彼女が無表情に戻ったのも、識っていた。
今更ながら、彼女はいつも何処か無理矢理冷たくなろうとしている気がした。

「非情なこと口にしてるけど、結局無視できなくて真っ先に動くんだよな、お前。俺よりよっぽどひねくれて、素直じゃなくて、馬鹿だぞそれ」
「そんなこと……っ」
遠くを眺める。全員が笑っている。彼等にとっては特に双子の姉弟にとっては知り合いが増えた日だ。しかし月に叢雲花に風とある通り、これからも続くとは限らない。
賽は投げられたのだ。
「……うん、そうだね、あたしも馬鹿だ」


「気付いたら、馬鹿になってた」
言の葉が溶けて、消えた。
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やなぎめし

Author:やなぎめし
最近の迷言:いつだって難産



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絶賛応援中


素敵企画を発見したので思わず。



本編目次

全14話予定

セイレーン編
第0話 世界の象徴
第1話 長くも短くもない一日( )
第2話 人魚の願い( )
第3話 鳥乙女の願い( )
第4話 寄り道道中( )
第5話 閑話休題( )
第6話 煌めきの都市防衛戦( )
第7話 旧時代
第8話 人形の願い
第9話 少しだけ長い一日

聖域編
第10話 鏡面世界
第11話 とても短い一日
第12話    の物語
第13話 聖域へと至る軌跡
第14話 ふたりぼっち
エピローグ

以降小出しにて更新中(現在第7話迄)



番外編目次

【時間軸】
ゲーム本編中:

サイト本編中:
現実と理想の差異による只の散歩
サイト本編後:
瑠璃くんの無駄に長い一日



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