FC2ブログ

スポンサーサイト

--.--.-- *--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

2.人魚の願い 後編

2008.11.25 *Tue
太陽が丁度真上にさしかかった時刻。かくして一行ははポルポタを目指し出発した。
観光名所でもあるショッピングマリーナ。夕刻でも繁盛ぶりは変わらずだった。
「いくぜコロナ!」
「待ちなさいよ、ずるい。一人だけ先に行かないでっ」
早々にバドとコロナが走り出す。あまりのはしゃぎぶりに通行人に衝突しかけた。しかし勢いは劣らない。二人の頭の中は青色でいっぱいだった。それしか目に映っていなかった。

「大丈夫ですか。すみません、久々にみんなで遊びに来たのではしゃぎすぎてて」
余所に出れば流石に瑠璃いじめの顔も引っ込む。セティールは衝突され駆けた初老に声を掛けた。彼は首を横に振った。
「いやいや子供が元気なのは良いことだよ。兄ちゃんの家族かい」
気に病むことなく終始人が良さそうな笑顔だった。意外と若い声である。
「ええ、まぁ。引き取って面倒を見ているが正解ですけど、家族、ですね」
双子を捜し視線を彷徨わせると、またしても見知らぬ誰かに衝突しかけていた。内一回は自滅して転んでいた。初老に別れを告げる。
ポルポタの壁や地面は一面の白で統一されている。一部珊瑚の死骸を砕き塗料として再利用しているらしいが、どのように製造されているのかは定かではない。以前家の塗り替え時コロナが欲していたのを思い出す。所々汚れた色が、それまで心訪れた人の数、年月を物語っていた。
バドは手すりまで一気に詰め寄り、体当たりしていた。ポルポタが一望可能な高台にやってくる。望む先には一面の蒼穹、眼下の碧海。彩りがやがて紅へと変化していた。

「師匠師匠すっげー、やっぱ海って広いんすね。初めて見たっす、すげー」
バドが子供特有の輝きを瞳に宿し振り返った。コロナも普段の自宅では見せない面持ちで、一心に目の前を見詰めている。互いに頬が上気し、興奮しているのがよく分かった。
「海を見るのは初めてなのか」
「いえ私は覚えてはいないんですけど、昔お父さんお母さんと一緒に何度か遊びに来たことはあるんです。でもこうしてみんな一緒に遊びに来るのは初めてだったから」
「師匠ありがとうございます。賢人に初めて会った時みたいな、こう、じわっときました」
そういえば幼いバドとコロナを海に連れてきたことは一度もなかった。振り返り、セティールは僅かに反省した。
幼い子供は感受性が豊かだ。それ故見て、触れて、感じて、子供ならではの様々な経験を養うことが可能である。それらの経験によって後の人生を大きく変えると言っても良い。彼等には多くのことを経験して貰いたいと気をかけているが、どうも未だに自らのことを優先してしまっている。セティールは苦笑するしかなかった。まだ自分は大人に成りきれない。
まるで誰かと同じだと改めて深く反省した。今度からは彼等を連れて旅に出よう。きっと楽しいはずだ。

「あれはなんですか、あの青いワゴン。なんだか子供がいっぱいですよ」
コロナが高台から階下を指し、エルの裾を軽く引っ張る。指の先には蒼い小さなワゴン車。小さい屋台ながらも、彼等程の幼い子供で溢れかえっていた。よほど人気らしい。
「おおっと、あれはアイスクリーム屋さんだねぇ。食べてみよっか」
コロナが遠慮しないよう、エルが食べることを前提に彼女を引っ張っていく。
「コロナだけずりぃぞ。えこひいきだ。エル俺も俺も」
「わ、私も一緒に行きたいです」
ぼやきながら後に続くバドと真珠姫がいた。彼女達は大慌てで列に向かって走り出した。
その後のんびりした足取りでセティールが遅く到着すると、高台を駆け下りた彼等は既に列の最後尾に並んでいた。彼等から数メートル離れ、手すりに体重を預けた。隣の瑠璃はだらけることなく、凛とした姿勢で起立している。流石に根本には騎士根性が根付いているだけのことはある。
ポルポタは観光地とあって訪れる人間は老若男女問わずと言う。しかしこうして眺めると圧倒的に若い世代が多い。見た目で年齢が把握できないので正確にはご老体かもしれないが。外はぴちぴち中はよぼよぼ。パール辺りにうっかり口を滑らせたら大惨事どころか、想像しているだけで肝が冷えるのはどうしてだと自問自答しながら、セティールは何処か悪寒を感じていた。
両親に連れられた子供が通り過ぎる。家族で満喫している様子に、少しだけ昔の自分自身を連想した。両親とはここ数年間連絡が取れていないが、何処をほっつき歩いているのか。溜息が出た。

「まだここは、あいつが一人で歩いても安心できるんだな」
椰子の葉が騒いだ。一陣の風が過ぎれば、ゆるりと穏やかに凪ぐ海が見える。足下で水柱が小さく上がった。
「でも気をつけた方が良いぞ。今は単純に人数が多いだけだから迂闊に手を出せないんだろ」
夕焼けは範囲を拡大し、青色を浸食していく。人混みもまばらになってきた。
時機に店も閉まる。
「もう片方と違って現実的だなお前は」
「ifの場合だ、そこまで悲観してるわけじゃない。てかセットにするなセットに」
セティールはアイスティーを一口含みながら答えた。
「ほとんど一緒にいるじゃないか。セットにされない方がおかしいだろ」
そうだろうか。
遠く、店員にアイスクリームを手渡され瞳を輝かせる少女がいた。双子の少年少女と一緒になってアイスクリームを食べている。実に美味しそうだ。
足下の小石一瞥し小さく蹴った。弱く水柱が上がった。

「で、いつの間にか一人だけ飲み物確保しているんだなあんたは」
横目で睨め付けられた。珠魅は飲料も必要なかったはずである。しかし暑いものは暑いのかもしれない。一口啜る。
「暑くて溶けるからな」
高台から降りてくる途中で実は確保していた。氷の入ったコップが冷たくて気持ちがよい。
「うん、確かに暑くて溶けるから食べるの難しいよね。おかげですぐに食べなくちゃいけないから味わえなかったなぁ」
「……あんたもいつの間にかいるよな」
瑠璃とセティールの真横にちゃっかりエルがいた。位置的にはセティールの陰に隠れているので、瑠璃からは丁度死角になる。
彼女はつい先程まで真珠姫の隣でアイスを食べていたが、既に完食しきっていた。あまりの早業に一瞬唖然とする瑠璃。更に驚くべきは飲んでいるものが小振りの椰子の実ジュースだったことだ。小振りとはいえリットル程度は軽く入りそうな器である。それを一人で飲むのかと問うてみれば、当然と返答があった。
ワゴンの周囲で冷たいお菓子に舌鼓を打っていた真珠姫達も戻ってきた。付近に屯しては営業の邪魔にしかならない。
双子は食べ慣れているのもあるのか、溶けそうな箇所を先に舐め、手に零れるのを防いでいた。因みに一気食いをしたエルは舐めずに食べていた。風情も何も感じられない。
真珠姫は初めて見る食べ物に最初はただ感動し、動かなかった。しかし放置しておけば氷は溶けるものである。アイスの一部が指先まで垂れてきた。

「真珠の姉ちゃん溶けてるぞ、垂れるから早く食べろよ」
「へ、え、あ、なんだかべたつくなって」
「そっちじゃないです、反対反対」
現実に戻った彼女が慌てて食べ始めるも、溶け出した勢いは止まらず、手がべとべとになってしまった。
「難しい食べ物なんですねアイスクリーム」
「そんな睨む食べ物じゃないと思うけど」
少女の眉が複雑そうに下がった。ある種扇情的とも取れるのだが、この手のネタはそろそろ背後が自重しておけとなったため想像に任せよう。以下略。
視線を元に戻す。天下の騎士様が大変なことになっていた。通行人が何事かと驚いている。心なしか避けられている感たっぷりだ。他人のふりをしたいが既に遅い。
顧みれば手頃な椰子の実を発見した。

「緩みきった顔を何とかしろ。流石に第三者にお見せできない顔になってるぞ」
普段の声音と、普段の言葉の掛け合いを意識したまま発する。想像してしまった瑠璃の後頭部に椰子の実が直撃した。セティールは両手に力を込め、瑠璃の後頭部、僅かにめり込んだそれを外し啜り始めた。
飲料物の器ではない。間違いなく凶器だ。そして全力でつっこみを入れないで欲しい。瑠璃は蹲りながら唸った。
ココナッツの濃厚な香りとフルーツの甘みが口内に広がる。一口だけ飲むと、ジュース、もとい椰子の実を返した。当然のごとくつっこみのためだけに借りていた。
波紋が幾重にも重なり、水面が揺れていた。

「お願いだから血糊は付けないで」
「悪い」
再びリットルジュースと格闘し始める少女。真剣である。
「てか、相変わらず師匠達ドライっすね」
呆れ返った声音が上がった。コーンに齧り付くバドがいた。
セティールは半眼で頭をかいては肩をすくめた。
「お前等の年よりも昔から、同じ釜の飯つつきあってるからな。いちいち騒ぐのもされるのも疲れる」
脱力したバドを尻目に、恥も素っ気もなく言い切った。その言葉にエルが続く。
「瑠璃に関しては全身全霊誠意を持ってからかうけどね」
「血も涙もないですね」
笑顔で親指を立てる彼女に、容赦のないつっこみが入った。
セティールは先刻から揺れる水面を見据えた。小さな気泡が浮かんでいる。いつまで経っても出てくる気はないようだ。

「エル、槍借りる」
返答を待たずに、彼女の腰にあるホルダーのボタンを外す。零れた槍を片手で拾う。
バドが思わず吹いてしまった。一同常識外れのセティールの行動にも喫驚した。だが、動じないエルの馴染みぶりはそれ以上に異常だった。傍目には先刻の行動がどう控えめに見てもセクシュアルハラスメント紛いにしか映らないからである。鍋どころの話ではない。
そもそも人間は自然、危険を感知すれば身を引くものである。第一腰元の時点で色々な意味で危うい。
セティールはまさかそんなことが囁かれているなど疑ることなく、一人水面と対峙していた。
一連の行動における躊躇いのなさは、特別、甘い感情から発現している訳ではなかった。単純に旅において効率が良いのだ。食べ物に困れば一つのものを分け合うのは当然であるし、戦闘中など微かな羞恥心など気に留めていたら命がない。
無論多少の分別はある。流石に大雑把対応の対象は、現在彼女しかいない。昔から互いに全力で殴り合った仲である。背景がもの凄く物騒だ。どうしても他は半歩だけ距離がある。故に全力で殴り合ったこともない。怒鳴り合うことも滅多にない。
しかし慣れの一言で流してみたが、気恥ずかしさは多少はある。
セティールは一寸隣のエルを覗いた。昔の作文を読まされるくらい、何故か歯痒くなった。
特別な感情は一切ないとは明言したが、過去から現在まで一度も抱いたことがないかと追求されれば、嘘であると白状するしかない。大体嫌いか好きかと問われれば、嫌いに部類されるはずがないのだ。
しかし子供でも発する言の葉を、セティールは彼女に伝えたことがない。恋愛感情の意味合いではなく、バドやコロナを含む家族としての意味合いを持ったものですら。どうしてか、バドやコロナや他の皆と違って昔から隣にいたせいか、口に出してはいけないという、暗示に似たものがあった。
言及を避けている。つまりそれが正解である。
もっともセティールも真剣に考えてはいないので、この話題は打ち切りとしよう。
気にしない方が、互いに付き合いやすいのだ。確かにある。だが逆に真正面から向き合っていないとも言う。
まぁ、1割でも良いので他人の目を気にして欲しいところである。

「ん、もう持っていかれてるから別にいいけど、どうするの。銛代わりに何か魚でも捕るならその槍使わないでよ」
柵の隙間から、矛先を水面に向かって構える。
「刺す予定はない。あっちが動かなければだけどな」
真っ直ぐに、貫いた。
手に感触が伝わってこない。成功した。

「んなななななななんてことすんのよ!!」
足下の水柱が一気に膨れあがる。水の弾が弾き飛んできた。半歩左に避ける。顔面すれすれに飛び抜けると、背後からおべしと奇声が上がった。真珠姫の深憂な声が飛ぶ。耳が塞がっていたので、空耳だった。そういうことにしておこう。
「いつまでのぞき見してるわけだ。ったく、何度もでてこいでてこいアクションしてたのに出てこないもんだから、ついやっちまったぜ(ほし)」
「ぜとか(ほし)とか最後に入れないっ。わざとらしすぎるじゃない。非常識にも程があるわよ、かすったわよ頭!!」
「フラメシュこんな言葉を知ってるか。出ないなら、禿にしようぜ、ほとと」
「意味わかんないわよ」
顔に張り付いた髪はそのままフラメシュは大きく肩で息をした。亜麻色の髪から絶えず滴がこぼれ落ちている。威勢良く飛び出した状態のまま、身なりを整えていないので、少しばかりホラーだ。
静まっところでフラメシュは鼻を鳴らした。全身がぶれ、次の瞬間には柵の上に腰掛けたいた。己の周囲を薄い水の膜に包み乾燥から身を守っている。

「あんた達2人だけだったら問題なかったのよ。一応頼み事があるから、様子を見てたの。ストーカーと一緒にしないで」
セティールとエルを交互に指さす。瑠璃や真珠、双子のことは当然ながら顔を知らないので警戒していたようだ。
「普段は警戒なんてしないし微塵も感じないのに、珍しいね」
人魚族特有の警戒心が彼女にはほとんどなかった。
エルは飲み終えた椰子の実を抱えたまま話しかけた。フラメシュは一瞬ぎょ、と擬音が目に見えるくらい驚いては姿を眩ました。文字通り、その場から消えたのだ。
背後から金属音がし、顧みると幾人かの帝国兵が駆け抜けていった。一時は全く見かけなかった兵士だが、最近は再び町などに現れるようになった。ポルポタは魔法学園等と同じく元帝国領なので、彼等が普通に歩くことが可能だった。ドミナの町では見かけたことがないが、一応あそこは別の領土になる。
もっとも今は帝国の衰退、寺院の復興、世界規模の改革が起き、領土など雑多し、ただの一般人には関係のない話だった。旅人に関してもそうである。逆にそのおかげで領土に入れない等が殆どなくなり、旅をしやすくなっていた。
兵士が駆け抜け、姿が見えなくなった頃、フラメシュが出現した。

「かくれんぼですか」
「違うぞ……頼むから少しの間黙っててくれ」
真珠姫のぼけた発言に、フラメシュは溜息を零した。空気を読んだ瑠璃が真珠姫を押さえている。
「エレが帝国兵に捕まったのよ」
「お前様子を見てた割にずばっと本題に入ったな」
「仕方ないじゃない、あんた達このままだと日暮れまで一緒にいそうだし、焦ってるのよこっちは」
人魚の尾びれがいらだたしげにべちべちと柵を叩く。真の通った綺麗な声だが、今はただ焦燥の色が浮かんでいる。
だから兵士が来て物陰に隠れたのだ。
エレさんってお名前、おねえさまと似ているね瑠璃くんとはしゃぎ声が耳に入った。双子に関しては置いていかれた感たっぷりにアイスのコーンをがじがじ齧り付いていた。後で説明するので、少し待っていてください。

「エレのことは知ってるわよね、以前リュミヌーの元彼が騒動起こしたときの被害者よ」
セティールは1年前の出来事を追憶した。
時折セティールとエルはポルポタに遊びに来ていた。理由があるわけではなく、ロアが付近にありリュミヌーへ挨拶ついでふらりと寄ることが多かった。
初めて訪れてから数回、ある日ショッピングモールの隅から歌声が聞こえてきた。人混みから離れているため最初セティールは喧噪に紛れて聞こえていなかった。しかしエルにははっきりと耳に届いていた。そして歌声の元を辿り、歌声に惹かれ彼女と出会った。外面こそ明るいが、実際人見知りの激しいエルにしては珍しく積極的な行動だったので印象が強い。
当初、フラメシュは一心に世界に浸りながら気持ち良く歌っていた。だが途中からエルがあまりに真剣な眼差しで見つめ続けた為、うんざりした表情をしたものだ。しかも歌を中断すれば、やめないでと必死に懇願される始末。最終的にはフラメシュが折れ、エルが聞き飽きるまで歌い続けた。結果、次の日喉が嗄れたのは良い思い出だ。全然良くないが。その後もエルは一人旅の最中、度々フラメシュに会いに来ているらしい。リュミヌーの友達とは後に判明したことである。
元来人魚とはとても疑り深い種族である。珠魅とは異なり、こちら何世代にも渡って人間とは醜い、多種族は醜いと教育されていた。その奥にある疑惑の塊は巨大で強い。普通ならば人里にすら寄りつかないのだが、彼女は生まれ付き外の世界に興味を抱いており、集落を抜け出してはこうして遊びに来るまでになった。そこまで世界を知れば教育などによる洗脳は受け付けない。おかげで今では半分勘当状態だと彼女は笑って話していたことがある。
その抜け出すきっかけが鳥乙女のエレである。海岸で歌を歌う、その頃は互いに幼かった2人が邂逅することとなった。マドラから更に人里離れた海岸だ。陸上は人が歩くのに困難な区域であり、海上も海流の関係上滅多に人が寄りつかない場所だった。フラメシュのお気に入りの歌の練習所である。
自画自賛のみではなく、他者からも認められ、フラメシュ自身歌が上手いと自信があった。しかし歌は毎日練習しなければ声帯が弱くなり、必然と歌声も表現が弱くなる。隠れたところで努力を惜しまない彼女にとって、その場所で歌うことは日課であった。
そんなある日エレがやってきた。生まれて初めてフラメシュは他人に対して、しかも多種族に対して敗北を感じたという。若気の至りと後に語る。とにかくそれから彼女達の交流が始まった。
一体どうして隣の芝はどうして青く見えるのだろうか。セティールが初めてこの話を聞いたときに抱いた感想である。
エレを知っているか否かというのは、リュミヌーの元彼、まぁ、馬に攫われたことがあるのだ。通称愛の吟遊詩人。ギルバート。手癖の悪さはお墨付きである。エルがぶん殴ったのは記憶に新しい。それでも愛に対しめげない彼はある意味世界最強である。フラメシュに会いにマドラ海岸にやってきたエレとしてはとんだ災難だ。
大分歪んではいるが、一言でまとめればそんな痴話喧嘩を陰ながら手伝った際、エレと話をしたのである。かれこれ1年ほど前の出来事なので、記憶が薄れてきてしまっていた。
セティールの視界の端にそろそろ飽きてきたのか、少しだけコロナが一行から離れる後ろ姿が映った。バドも一緒について行っている。町の仲にいる限り安全だと思うが、少し心配である。

「確か綺麗な羽があったよね。おっとりしててちょっと人見知りするところがなんか似てるなぁって思ったもん」
「そうそう、で、下半身は蹄付いてんだよな。あれには驚いた、鳥乙女というからてっきり鳥の足だと信じてたのにな」
「歌が上手くて、常に愛を囁いて……なんか違うような気がするんだけど」
「全然違うわよ! 半分馬が混じってるわよ、あの馬が!」
エルが首を傾げ、フラメシュが裏拳でつっこみを入れてきた。肩を思い切り叩かれ痛い。
どうどうと、エルが肩で息をするフラメシュをなだめていた。紛れもなく馬の扱いである。これは酷い。それでも悪気は半分くらいしかない。全部悪意になると瑠璃に対するものと似た惨事が待っている。
「あんたたちが悪いやつじゃなさそうっていうのは、十分理解してるし。基本阿呆だから帝国に情報渡すとかないと思うし。それにあたしじゃ助けられないのよ」
奥歯を噛み締める。苦悶の表情を浮かべ、瞳は今にも涙が零れそうだ。彼女にとってそれだけ親友の存在が大切であり、だからこそ一人ではどうにもできない歯痒さが苦しくて仕方ないのかもしれない。

「なんでまた帝国なんかに捕まってんだ、何かやらかしたのか」
「船を沈めたって聞いたわ。この通りあたしは地上なら何処でも転移可能だから、監禁場所にも移動できるのよ。でもあたし一人しか転送出来ないし、エレ自身が出たくないってごねるの。入り口には魔物もいるし。バッカみたい。何考えてるのよあの娘は」
彼女の話によれば鳥乙女の監禁場所は、魔物が昔から住処にしている場所だった。マドラ海岸の外れ、通常ならば近付くことすら不可能である。帝国兵はそこにエレを放り込んだ。最初から彼女の生死など関係ないのだ。エレ自身は幸いにも歌の魔力により魔物の動きを鈍らせ、間一髪奥の2階の隙間へ逃げ込んだらしい。だがそれは偶然の産物であり、2度目の奇跡があるとは到底考えられない。エレ自身が抜け出すのを拒んでいるなら尚更だ。
食料は運べば何とかなる。歌も声を潰されていないので問題はない。しかしこのままでは外に出られない所か、閉鎖空間に閉じこもり、心が死んでしまうのではないかとフラメシュは危惧しているのだ。
鳥乙女一族も、エレの歌わない姿勢からほぼ勘当されている状況のため助けが来る可能性は低い。何より彼女達が動いてしまっては幾ら衰退しているとはいえ帝国とぶつかることになる。それだけは回避したいはずだ。そんな理由もあり、救助はまずない。
明らかにフラメシュは苛立っていた。自身への屈辱感、エレの最初から断念している姿勢、全てが嫌なのかもしれない。
バドとコロナが駆け足で戻ってきた、何処へ行ってきたのか息も絶え絶えである。

「頼まれ事か」
「そうみたいだね。瑠璃は一旦真珠ちゃんとバドとコロナの2人の面倒見てくれないかな」
「構わないが2人だけで大丈夫か、いや、あんたらなら心配の必要もないか」
むしろ魔物に合掌しておこうと独り言がセティールの耳に入った。よし、あとで一発しめておこう。
大人数では逆に魔物を刺激しかねない。何よりエレを警戒させたくなかった。

「エルさん、セティールさん、私達は大人しく待っていますから、早く帰ってきてくださいね」
不安げな色を見せるコロナ。エルは膝をつき少女と目線を合わせると、軽く頭を撫でた。
「大丈夫。明日もあるし、いっぱい遊ぼう。それにいざとなったらそこのセティ盾にしてでも逃げるから」
「お前俺よりずっと強いくせに、弱い奴を盾にすんな」
「その言葉、そのままあんたに返したいぞ、俺は」
一連のぼけとつっこみに、真珠姫が楽しげに笑っている。緊張感のない一行である。
「師匠帰ってきたら花火がしたいっす」
バドとコロナがナップザックを漁り、何種類かの小型の花火を取り出した。最近魔法学園で販売されたものだ。もしかしたらこれで遊びたくて楽しみにしていたのかもしれない。そう考えると胸が痛んだ。
「ねずみは俺が全部貰う予定だから、確保しとけよバド」
「了解っす」
「あ、ずるい、あたしが全部使おうと思ったのに」
「あんた等、絶対矛先は俺だろう。畜生、あんた等が戻る前に全部捨ててやる」
「瑠璃くん捨てるのは勿体ないと思うの、使ってあげなきゃ」
はいはい、とコロナが両の手を叩いた。

「いってらっしゃい。楽しみに待ってますから。あと、ねずみはわたしが預かるので、戻ってきてから争奪戦してください。チョコボは2頭だけ町の外に移動しておきましたから使ってください」
箒を握りしめ、少女は笑顔で告げた。どうしてだろう彼女には頭が上がらない。先刻離れた理由は事を見越してだったか。セティールは頭をかき苦笑した。
幸いにも武装はそのまま町に繰り出したので、すぐに出発可能だ。腹の虫が鳴りそうだが、この際仕方がない。
「ぼさっとしてないであたしは先に行くわよ。マドラ海岸の、そうねウエストエンドビーチ。大体いつもぶにゅがいる所で待ってるわ」
紅色に紛れ、フラメシュは海面へ飛び込んだ。泳いでいける分、彼女の方が早くに到着するはずだ。セティールとエルも片手を振り、一行に別れを告げ、彼の地を目指し馳せる。
人が増えてきた。まもなく日が沈む。夜間の戦いは正直避けたいのだが、一刻を争う事態と懇願されて黙っていては男が廃る。溜息が零れた。
過ぎる町並みの酒場では兵士で溢れかえっていた。帝国の兵士だ。何かあったか喧騒が酷い。
何か叫んでいる声があったが、上手く聞き取れなかった。
ちりちりと耳の奥が痛む。悪いことが起きなければ良いが。誰にともなく祈った。
スポンサーサイト
COMMENT : 0
CATEGRY : 小説

COMMENT

Comment Form


秘密にする
 

プロフィール

やなぎめし

Author:やなぎめし
最近の迷言:いつだって難産



カテゴリ

注意事 (1)
設定 (2)
小説 (17)
日記 (8)
リンク (2)
その他 (0)



絶賛応援中


素敵企画を発見したので思わず。



本編目次

全14話予定

セイレーン編
第0話 世界の象徴
第1話 長くも短くもない一日( )
第2話 人魚の願い( )
第3話 鳥乙女の願い( )
第4話 寄り道道中( )
第5話 閑話休題( )
第6話 煌めきの都市防衛戦( )
第7話 旧時代
第8話 人形の願い
第9話 少しだけ長い一日

聖域編
第10話 鏡面世界
第11話 とても短い一日
第12話    の物語
第13話 聖域へと至る軌跡
第14話 ふたりぼっち
エピローグ

以降小出しにて更新中(現在第7話迄)



番外編目次

【時間軸】
ゲーム本編中:

サイト本編中:
現実と理想の差異による只の散歩
サイト本編後:
瑠璃くんの無駄に長い一日



最新記事



月別アーカイブ

03  02  11  09 



メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:



お代はラヴで



Copyright © めしどころ All Rights Reserved.
Images from ふるるか Designed by サリイ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。